「超党派外交政策の構築」 マドレーン・オルブライト国務長官 ライス大学ジェームズ・ベーカー公共政策研究所での講演 (1997年2月7日、テキサス州ヒューストン市)  皆さん、どうもありがとうございます。  国務長官に就任後初めての公式訪問地として、これほどふさわしいところ、これほど すばらしい聴衆は、ほかに考えられません。最初私は、来週の木曜日、2月13日にこち らで講演をさせていただこうと思っていましたところ、先遣隊の話では、ライス大学は 毎月13日がお休みだということでした。昔からのアカデミックな儀式、ストリーキング を祝う休日だそうです。私は、初の女性国務長官として、そこまでやれるかどうか、自 信がありませんでした。  世の中には、自分はどんな疑問に対する答えもわかっていると考える人たちが多いも のですが、その中でライス大学とこの研究所は、適切な疑問を提示することの大切さを よく理解しています。そして皆さんは、英知を求める過程で、すぐれた指導者を得られ ました。  ジェームズ・ベーカー氏は、『外交の政治学』という題の回顧録を出されていますが、 彼は、実績が証明するとおり、外交においても政治においても第一人者でした。ベー カー氏の業績は、国民から感謝されており、私は彼がここで始めた新しい仕事をこの目 で見られることを、大変嬉しく思います。そして、国務長官でも退職後、ふつうの仕事 に就けることがわかったのも嬉しいことです。  さて、本日は、私の新しい仕事について、お話ししたいと思います。私が国務長官に 就任してからちょうど2週間になりますが、すでに私の話し方が、常にマスコミ向けの コメントになっていると言われています。これは私の本意とするところではありません。 私は、自分ではヘンリー・キッシンジャー元国務長官のように話しているつもりなので すが、残念ながら、どちらかというとデイビッド・レターマン(訳注:軽妙なしゃべり で人気のテレビトークショーの司会者)のように聞こえてしまうようです。私が目指し ているのは、フォギーボトム(国務省の俗称)の霧を晴らすことです。そのためワシン トンでは、すでにちょっとしたカルチャーショックを感じている人がいます。これは決 して作り話ではありませんが、フォギーボトムというところは、エレベーターの検査証 明書に、「エレベーター」ではなく「垂直輸送装置」と書かれているような場所なので す。  私は国務長官として、外交政策について抽象的な言葉で語るのではなく、人間的な言 葉で、また超党派的な言葉で語るように全力を尽くすつもりです。私がこの点を重要視 するのは、我々の民主主義においては、国内で理解されず支持を得られない政策を、国 外で追求することはできないからです。  大統領から指名された時、私は、米国が国民の名において世界各地で実施する政策に ついて、誰が、何を、いつ、どこで、そして特に「なぜ」という点を、国民に説明する 義務がある、ということを述べました。私は今日から、その義務を果たすつもりです。  クリントン大統領は、火曜日(2月4日)の一般教書演説の中で、米国は21世紀への準 備として、世界の変化の力をよく把握し、未知の時代に備えて強く確実な指導力を維持 しなければならない、と述べました。幸いなことに、クリントン大統領の指導力、そし てヒューストンが誇るジョージ・ブッシュ前大統領の指導力のおかげで、私は追い風に 助けられて仕事を始めることができました。  米国は、尊敬され、平和な状態にあります。私たちの同盟関係は強力であり、経済は 活発です。また遠くはアジアの国々から、中央ヨーロッパやアフリカの新しい民主主義 諸国まで、そして近くはアメリカ大陸内の自由な社会に至るまで、私たちの制度や理念 は、自由を求める人々の模範となっています。  こうした状況は、偶然の産物ではなく、今後も必ず続くという保証は何もありません。  米国の指導力が築いた民主主義の発展を、今後も維持しなければなりません。また世 界各地で国益を守るためには、指導力を維持する必要があります。  だからこそ、我が国の軍隊が、世界で最もすぐれた指導者の下で、最高の訓練と装備 を持ち、最も尊敬を集めなければなりません。クリントン大統領が約束したように、米 国はそれを実現させます。  また、第一級の外交も必要です。我が国の重要な利益を守り、安全を維持するには、 軍事力を持つことと、その軍事力を行使するという信ずるに足る確かな可能性を示すこ とが必要です。しかし、軍事力だけでは鈍器になりかねず、それでは解決できない問題 がたくさんあります。すぐれた効果を上げるには、軍事力と外交が相互に補完し合い、 強化し合わなければなりません。自国の利益を守るため外交に依存しなければならない 場面は多く、米国の外交官は、技能と知識と毅然とした態度で国家の利益を守ることを 期待されます。  インディアナ州選出のリチャード・ルーガー上院議員の言葉を借りれば、残念ながら、 今日の米国の国際活動は資金・人員ともに不足しています。世界で最も豊かで力のある 国でありながら、国連や国際金融機関の最大の債務国となっています。国家の富の何 パーセントを、開発途上国における民主主義や経済発展の促進に費やしているかを比べ ると、我が国は工業国の中で最下位です。そして、外交面では、米国は確実に、一方的 に力を失いつつあります。  過去4年間に、国務省は職員を2000人以上減らし、在外公館を30以上閉鎖し、対外援 助を3分の1近く削減しています。これは許容しがたい状況です。本日、ここには学生 もたくさんいます。将来この中から、私やベーカー元長官と同じ職に就く人が出るかも しれません。私はそうなることを願っています。皆さんの時代が来る頃には、皆さんが 私たちの国家を守り、職務を果たすために必要な外交上の手段が揃うように、私は任期 中、全力を尽くすことをお約束します。  昨日(2月6日)、大統領が1998年度予算教書を議会に提出しました。総額およそ1兆 8000億ドルの予算のうち、国際活動のための予算総額は、約200億ドルです。これは、 ボスニアの再建から、サダム・フセインに対する制裁の実施、そして世界各地の麻薬組 織のボスや組織犯罪との戦いまで、すべてをカバーする予算です。この予算案の承認は、 私や、外交政策の専門家たちだけでなく、国民ひとりひとりにとって重要な問題です。  たとえば、ヒューストンの住民にとっては、国際投資や貿易を通じて、あるいは海外 の労働者や当地に新たに来た労働者との競争といった要素を通じて、自分や家族の仕事 が国際経済の状況に結びついているはずです。この地域で盛んな農業とエネルギー産業 は、特に外国の価格、政策、政治の影響を受けやすい産業です。米国全体の傾向と同様、 皆さんの家庭でも将来の見通しは明るいことと思います。しかし一方で、近くの国境を 越えて入ってくる麻薬のせいで犯罪が増えることを心配していらっしゃるかもしれませ ん。また、技術の進歩が、新しい奇跡を生むだけでなく、新しい、より殺傷力の大きい 武器を生んでいるという問題もあります。テレビをつければ、手紙爆弾や有毒ガス、爆 弾によるテロのニュースが流れ、次はいつ、どこがテロリストの標的になるのか、不安 を感じずにはいられません。  学生も両親も、教師も労働者も、この国の子どもたちの将来を心配しています。世界 の市場は拡大を続け、新たな機会や雇用を生み出すのでしょうか。地球の環境は、増加 する人口と汚染の攻撃に耐えられるのでしょうか。私たちは、エイズなどの疫病の流行 を抑えることができるでしょうか。そして、この世界は、今後も核によるハルマゲドン の脅威から遠ざかることができるのでしょうか。それとも、再びその亡霊が、前にも増 して危険な別の形で大きく迫ってくるのでしょうか。  米国民の多くは、米国という国は普通の国とは違うのだと思っています。私たちは、 強い米国、尊敬される米国を求め、今世紀が終わって新しい世紀に入っても、尊敬され る強い国であり続けることを望んでいます。  こうしてみると、1つはっきりと言えることがあります。米国の外交政策の成否は、 私たちの生活に影響を及ぼすだけでなく、私たちの生活の質を左右する要因となります。 外交政策如何によって、平和と繁栄と法を特徴とする将来が得られるか、または経済と 安全保障が常に危険にさらされ、心の平和が常に乱され、米国の指導力に対する疑問が 増大する不安な将来となるかが決まるのです。  ここで問題となっている予算は、連邦政府予算の約1%にすぎません。しかし、その 1%が、この時代の歴史の50%を決める可能性があるのです。そしてその1%が、米国 民の生活に100%、影響を及ぼします。  もう少し具体的にお話ししましょう。第1に、外交政策は雇用の創出につながります。 クリントン政権は、1993年以来、200以上の通商協定を締結しています。これらの協定 は、輸出の急増に貢献し、160万を超える雇用を創出しました。本日、私はメキシコの グリア外相とお会いしましたが、米国の対メキシコ貿易の拡大は、真のサクセス・ス トーリーと言えます。昨年だけで、輸出額は1250億ドルに達しています。北米自由貿易 協定(NAFTA)も確立され、今年は約220万人の米国民が、NAFTA加盟国に輸出される製品 の生産に携わると推定されています。米国は、NAFTAの承認、ウルグアイラウンドの合 意、そしてラテンアメリカとアジア諸国との自由貿易へのコミットメントの強化を通じ て、米国をダイナミックな要として発展する世界経済の創出に貢献しました。  これは、この地域にとって非常に重要なことです。ヒューストンには米国有数の港湾 があります。テキサス州は、国内第2位の輸出州です。通商は州の発展に貢献するとと もに、さらに直接的な恩恵を生み出します。長年にわたって、テキサス州の穀物は、 「平和のための食糧」計画で販売される主な商品の1つとなっています。  米国の経済発展は、偶然の産物ではなく、主として科学者の才能、ビジネス関係者の 事業力、そして工場や農場の生産性によって実現したものです。しかし、それだけでは なく、自国の事業と労働者が、公正な扱いを受けるように努力をした米国の外交官の力 にもよるものです。たとえば、米国のビジネスマンあるいはビジネスウーマンが、契約 を取るために外国の公務員に賄賂を贈ったとしたら、罰金か懲役刑を科されるでしょう。 しかし、ヨーロッパ人が同じ贈賄をした場合、所得控除を受けられる可能性が高いと言 えます。  私たちは、公平に適用される高い基準を設定するべく努力を続けています。そして、 米国企業にとって公平な競争の場を作るとともに、国民にさらに機会を提供しようとし ている米国の起業家のために、世界各地の大使館の門戸を開放しています。こうした努 力は、今後も間違いなく続きます。私が国務長官の職にある限り、外交影響力が、米国 経済発展の支援に結びつくからです。  私たちはまた、米国の安全を守るためにも外交を活用します。冷戦は終結したかもし れませんが、大量破壊兵器が米国の安全保障にもたらす脅威は、軽減されたに過ぎず、 なくなったわけではありません。  近年、米国の指導力の下で、多くのことが達成されました。もはやロシアの核弾頭が 米国に向けられることはなくなりました。ウクライナに残っていた最後のミサイル格納 庫の跡は、ひまわり畑となり、ベラルーシやカザフスタンの核兵器も除去されました。 北朝鮮の核兵器計画は凍結されています。核拡散防止条約は延長されました。包括的な 核実験の禁止が承認され、私たちはブッシュ政権の努力を引き継いで、イラクの大量破 壊兵器の生産能力を完全に、かつ確実に解体しようとしています。大統領の予算は、私 たちがこうしたステップをさらに発展させることを可能にするものです。  それは、核兵器保有量をさらに削減し、核材料の安全な取り扱いを保証し、外国の核 計画の国際査察を支持し、締結された協定を実施するのに必要な財源となります。  また、この予算は、国際的な安全保障と平和の促進に不可欠な国家としての米国の役 割を反映するものです。  この予算の最も大きな部分を占めるのは、中東和平交渉への支援です。しかし、ここ でも、中東で再び戦争が勃発した場合に米国とその友好国が支払わねばならないコスト に比べれば、大した金額ではありません。1973年に中東での戦争が原因で発生した石油 危機は、米国経済を混乱させ、急激なインフレを起こし、国民はガソリンを買うために 何マイルにも及ぶ列を作らねばなりませんでした。今日、中東の勇気ある指導者たちの 力と、米国の粘り強い外交によって、ベーカー元国務長官が始められた和平交渉が続い ています。イスラエルが、ヨルダンおよびパレスチナ当局と歴史的な条約を結び、また 最近のヘブロン撤退協定が示すように、暴力、テロ行為、そして悲劇的な暗殺事件の発 生にもかかわらず、和平への動きは継続しています。  私は国務長官として、今後も米国が中東において平和支持者の側に立ってテロリスト と戦うことを保証します。それが国益につながることであり、米国が約束したことであ り、米国民としてなすべきこと、正しいことだからです。米国は、比類のない能力と力 を持つ国です。緊急事態の下で他の諸国が米国に依存するのは当然のことです。我が国 が行動する機会は無限にあります。しかし、私たちの財源は無限ではなく、また私たち の責任も無限ではありません。米国は慈善団体や消防署ではありません。  米国が自分の利益を守り、信用を維持するには、何にコミットするかを慎重に検討し、 何をするかを慎重に選択し整理しなければなりません。  そのために私たちは、緊急事態や紛争に対応し、そうした紛争の原因となる状況に対 応する他の手段を強化しなければなりません。そのような手段には、国連、地域協力機 構、国際金融機関などがあります。  これらの機関は、平和維持、“不良”国家に対する制裁、新市場の創出、環境保護、 難民対策、その他世界各地で発生する問題に対応するコストの大きな部分を、米国に代 わって負担してくれます。  残念ながら、近年米国はこうした組織への債務支払を滞らせています。米国は国連そ の他の機関に対して約10億ドル、多国籍銀行にも約10億ドルの債務があります。  大統領は、これらの債務の多くを支払うための予算も要請しています。それは、こう した債務が米国にとってマイナスだからです。米国の債務があるために、これらの機関 が米国の利益となる活動をする能力が制限されます。また、債務の存在が、米国による 改革の提案の力を弱め、米国の指導力をよく思わない国にとっては、米国を攻撃するよ い口実となります。  米国は、国際機関が国際社会と米国のためによりよい活動をできるよう、そうした機 関の強化と改革の先頭に立てる立場に、また率先すべき立場にあります。しかし、それ をするには、私たちも払うべきものを払わなければなりません。ポーカーをしたければ、 チップを出さなければならないのです。  ここで、特に大統領の初期の優先事項の1つについてお話ししておきたいと思います。 これは予算にはほとんど関係のないことですが、米国の国際的な地位に関係することで す。大統領は、地球上の化学兵器を全廃する国際条約を承認するよう上院に要請しまし た。これは化学兵器禁止条約と呼ばれているもので、4月29日に発効します。私たちは、 米国がこの条約の原締約国となれるよう、それまでに条約を批准することを目標として います。  化学兵器は、残虐、大量、無差別に人を殺し、風と同様に制御できない非人道的な兵 器です。 米国は、何年も前に、このような化学兵器の保有をゼロにすること、そして軍事ドクト リンから化学兵器使用の可能性をなくすことを決断しました。  化学兵器禁止条約に調印する国は、同様の方針をとることを法的に義務付けられます。 この条約によって、今後我が国の軍隊が戦場で化学兵器に遭遇する可能性が少なくなる とともに、不良政権が化学兵器製造の原料を入手することが困難になり、またそうした 兵器がテロリストや我が国の利益に敵対する者の手に入る可能性が少なくなります。そ の結果として、米国と世界の安全性が高まります。  しかし、残念ながら誰もがこのような見方をしているわけではありません。上院での 条約の批准は確実とは言えません。反対派は、不良国家が早期にこの条約を批准するこ とが期待できない以上、十分な保護が得られないと主張しています。これは残念なこと です。しかし、化学兵器禁止条約が米国の利益となることは確かであり、それについて はベーカー元長官も、先ほど私を紹介くださった時に、はっきりと述べておられました。  化学兵器禁止条約は、化学兵器の製造・保有を違法とするものであり、これは不良政 権に対する圧力を強めます。そして、国際制度の一部として、その恩恵をフルに享受す ることを望む国家は化学兵器禁止条約を批准し遵守しなければならない、というメッ セージを送るものです。  つまるところは、「法に従う国家と不良国家のどちらが国際社会の規則を決めるべき か」という問題に行き着きます。違法国家がまず先に規則を受け入れなければ、その規 則を導入できないのか。それとも、国際的な基準を遵守する国とそうでない国との間に、 法律上可能な限り明確な一線を画するべきなのか。  残念ながら、ノーマン・シュワルツコフ将軍が先頃述べたように、条約反対派が勝つ と、結果的には、米国は友好国・同盟国と袂を分かち、リビアやイラクと手を結ぶこと になってしまいます。  反対派が勝てば、米国は、条約実施と化学兵器破壊の規則の作成にかかわる権利を逃 すことになります。また、条約の下で米国人が査察の運営と実施にかかわる権利も失い ます。条約を批准しない国には通商制限が課されるため、米国の化学産業は何億ドルも の輸出売上を失うことが考えられます。そして、米国は軍縮交渉全般において信用を失 います。米国が交渉のテーブルで提案したことを上院で実行する能力が、私たちの友好 国・同盟国にとっては非常に理解しにくい理由によって、損なわれてしまうからです。  はっきりとさせておきますが、化学兵器禁止条約が米国の利益となることに間違いは ありません。この条約は、「メード・イン・アメリカ」と言ってもいいほどです。この 条約は、レーガン大統領が支持し、ブッシュ大統領のもと当時の国務長官のおかげで巧 みな交渉が行われてまとめられたものです。そして今、クリントン大統領、ビル・コー エン新国防長官と私は、上院議員全員と話し合い、この重要な条約をタイムリーに批准 できるまで努力を続けます。  最後に申し上げておきたいのは、私はこの新たな任務に就くに当たって、米国の国外 での活動のすべてに対して確実に国民の支持を得る方法はないことを認識している、と いう点です。率直なアプローチは、確かに有効です。議会との協議は不可欠であり、実 際、私たちは前例のない緊密さで、両党の議会指導者と話し合いを行っています。しか し、米国人は公正さという点では容赦をしません。ケネディ大統領は、ピッグス湾事件 の後で、成功には1000人の父がいるが失敗は孤児である、と言いました。私たちは、最 終的には、言葉や理屈ではなく、結果によって評価されるのです。  米国民は、常に国外での活動については相反する感情を抱いてきました。第一次大戦 の末期に、米国の外交官がベルサイユで交渉を続けている時、ヨーロッパに駐留する1 人の米軍将校が、妻となる人への手紙で望郷の念を表して、こう書いています。「我々 は誰も、ロシア政府が共産主義かどうか、王様が臣民を虐殺しているかどうかなどとい うことには興味がない」その米軍将校、ハリー・トルーマンが、30年後に、もう1つの 世界大戦の最終段階で米国の指導者となるのでした。  その大戦終結後、我々が戦った敵は敗退したと述べるだけでは十分ではありませんで した。トルーマン、マーシャル、バンデンバーグといった指導者は、永続する平和の構 築を決意し、そして、同盟国とともに、自由を守り、経済を再建し、法を支持し、平和 を維持する制度を築いたのです。今日、米国が直面する最大の危険は、外敵ではありま せん。それは、私たちが前の世代の模範を忘れ、孤立主義の誘惑に負け、米国の力を維 持する軍事と外交を軽視し、今世紀の基本的な教訓、すなわち国外の問題を放っておけ ばいずれ米国の問題となって帰ってくるという教訓を忘れてしまうことです。  今から10年、20年後、米国は全体主義とファシズムが再び台頭することを許した新孤 立主義者となることもできれば、世界的な民主主義の勝利を強固にした世代として評価 されることも可能です。ビジョンの欠如から経済を混乱させた新保護主義者となること もできれば、世界の繁栄の基盤を築いた世代ともなり得ます。そして、新たな世界紛争 の種がまかれるのを傍観していた国際的な「卑怯者」になることもできれば、侵略を抑 止し、核兵器を管理し、平和を維持するために強固な手段をとった世代として評価され ることもできます。  個人にとっても、1つの世代にとっても、必ず成功が保証される道というものはあり ません。最終的には、それぞれの判断と選択にかかっています。その選択に当たって私 たちは、米国の誇る歴史には、不満ばかり言う者や悲観的な予言をする者によって書か れたページはないということを覚えておくべきです。私たちは行動する国民だからです。 それぞれの時代の国民と同様、今の時代における私たちの義務は、歴史にとらわれるの ではなく歴史を形づくること、私たちの自由を守り、活用して、私たちと同じように自 由と平和と平穏な普通の生活を望む人たちを助けることです。  そのために、私は全力を尽くすつもりですし、皆さんにもそうしていただきたいと思 います。  ご清聴ありがとうございました。 ■■■