環境ニュース
NIEHSニュース | 格差の力学
乳がん、前立腺がん、高血圧等の疾患は、多くの人々に悪影響を与える心労を作り出している。しかし、これらの疾患にかかりやすい集団と、かかりにくい集団が� る。それは、なぜだろう?この疑問を解決するために、全米で8ヶ所にCenters for Population Health and Health Disparities(国民の健康と健康格差研究センター)が設立された。今月の最新情報(p. A592)では、これらのセンターで行われている多様な集団間における健康相違の原因の検証を試みる調査について考察している。
FOCUS | 惑星の過負荷
世界人口が増加するにつれ、それを支える地球の能力への懸念も高まっている。過去に専門家たちは、人口の増加によって最終的には地球の資源が枯渇してしまうと予測していたが、人類は技術の進歩と工夫によって順応し、調整を続けてきた。しかし、今後20〜30年の間に世界の人口は倍近くに膨らみ、特に資金が不足している発展途上各国でこれが顕著になるという予測も一部に� るが、地球には、人類の需要に合わせた供給が可能なのだろうか?同記事(p. A598)では、人口増加が地球の維持力に投げかけている幾つかの挑戦を検証し、将来のシナリオを検討している。
SPHERES OF INFLUENCE | 楽園でもすべてがうまくいくとは限らない
リラックスした雰囲気と息を呑むようなすばらしい景色で知られている小島から成る各国を、多くの人々は楽園と呼ぶ。しかし、こののどかな姿の向こう側には、それらの各国が直面している日常の現実が� る。その中のほんの一例として、激化する嵐、海面上昇、経済的安定に対する脅威、などが挙げられる。同記事(p. A606)は、これらの小国の指導者たちが、国民の生活への脅威を取り除くために採用している戦略の一部を検証している。
INNOVATIONS | 疾病発生検知スキャン
疾病の発生地域が早期に発見できたとしたら、どのくらい有益で� ろうか?健康産業の専門家たちにとって、その有益さは明白で� る。その理由は、早期発見によって、疾病の発生が集団内で大きく広がる前に阻止できる可能性がでてくるためで� る。同記事(p. A610)は、電子カルテに基づいた特定地域における疾病の発生パターンを予測するための、時空間の順列スキャン統計を使用する新しいモデルについて考察している。この新しいデータ評価方法は、疾病の広がりを制御する信頼できるツールとなり得るだろうか?
論評
リスク査定 | NAS調査結果と過塩素酸塩RfD
米国環境保護局は、2002年に過塩素酸塩のリスク査定を行い、動物とヒトの毒物学データに基づいた基準量(RfD)を設定した。最近、全米科学アカデミー(NAS)の研究結果が米国環境保護局の基準量にとって変わったが、この結果を見ると過塩素酸塩のRfDが20倍になっている。GinsbergとRice (p. 1117)は、次の3分野におけるNASのRfD設定に懸念を表明している。NASでは観察不能とされている悪影響レベルが、実際には過塩素酸塩による影響と関連しているということ。不確定要素への考慮が不十分で� ったこと。NASはヨード化物摂取の抑制が悪影響ではないと判断していること。
毒物学 | 研究所の食物中のメチル水銀
水銀の蒸気によるラットの神経発達に関する研究の際に、Weissら(p. 1120)は、非曝露の対象ラットの血液に有意な量(30〜60 ng/g)の水銀を検知した。中でも有機水銀が主で、研究所の食事が汚染の原因で� ることが判明した。食物の量は給食業者の規定による検知限界を下回っていたが、生物学的には有意で� る可能性が高い。このような汚染が発生すると、意図的な投与量に基づいた結果が変わることも� り、研究の主題材で� る他の物質との相互作用も生まれるかも知れない。
レメディエーション | 砒素と動物老廃物の管理
過去50年間の鶏肉産業の変化は、図らずも、大規模な環境危機管理が無視される結果を招いてしまった。それは、鶏の集中飼育所(CAFO)のプロセスによって排出される老廃物が、地域のゴミ集積所の処理能力を大きく超えてしまっているという事実で� る。鶏の飼料に使われている有機砒素剤は鶏の老廃物では無機砒素剤に変化するため、廃棄物管理の対策に限界をきたし、ヒトの曝露の危険性を高めている。Nachmanら(p. 1123)は、砒素を含まない飼料を考案することが、鶏の老廃物を無害にするための重要なステップで� ると主張している。
レビュー
がんレビュー | 幼少期の発がん物質曝露による感受性
現在のがんリスク査定では、化学物質曝露による感受性は子供と大人で同じで� ると想定されている。Bartonら(p. 1125)は、この想定が科学的に正しいか否かを断定するために研究論文を調査し、50を超える化学物質が、妊娠中曝露によってがんを発生させることを発見した。一般的には、内分泌作用を持つ化合物の曝露を早期に受けると、曝露年齢によって異なるタイプの腫瘍が発生する可能性が� る。これらの分析の結果は、早期暴露による特に突然変異作用を持つ化学物質によるがん感受性が増加していることを示唆している。
研究
がん | 砒素誘導によるアンドロゲン非依存
Benbrahim-Tallaaら(p. 1134)は、前立腺腫瘍がアンドロゲン非依存性へと変化する過程に砒素が影響を与えるか否かを判断するために、非腫瘍形成型の砒素形質転換ヒト由来前立腺上皮細胞株を使用した。対照と慢性砒素曝露のヒトの前立腺上皮細胞株(CAsE-PE)を、完全な培地またはステロイド枯渇培地の中で維持した。砒素形質転換細胞は、完全培地で対照細胞より早い増殖を示し、ステロイド枯渇培地でも増殖が継続した。対照細胞とCAsE-PE細胞は類似のアンドロゲン受容体レベルを示したが、アンドロゲンは細胞増殖刺激とCAsE-PE細胞の遺伝子発現における効果が比較的低かった。したがって、砒素誘発による悪性形質転換は、ヒトの前立腺細胞における後天的アンドロゲン非依存性と関連しているといえる。
Science Selections, p. A614も参照
呼吸器の疾病 | PM2.5と公衆衛生
JohnsonとGraham (p. 1140)は、米国環境庁(EPA)が空気力学的直径で2.5
µm未満の微粒子(PM2.5)に関して、年間と24時間の質量ベース基準を改定した場合に、新基準への準拠によって、米国北東部の一般の人や感受性の高い人のうち恩恵を受ける人の割合を特定した。結果を見ると、現行の年間/24時間のPM2.5基準に準拠していない郡に住む一般の人は、人口のわずか16%で� った。カリフォルニアやカナダが推奨するPM2.5基準では、北東部の人口の84〜100%が保護され、現行の米国EPA推奨基準では、同じ人口の29〜100%が保護されるで� ろう。
リスク査定 | 総合死亡率の変動と微粒子
大気中の微粒子(PM)値が数日おきにのみ測定可能な都市における死亡率とPMの時系列研究では、1日のPM暴露値利用は制限される。しかし、現在の証拠からは、死亡率に対するPMの影響は、3、4日以上にまたがっていると考えられる。この事実に鑑み、Roberts (p. 1148)は、PMデータが6日に一度しか入手できない場合でもPMの死亡率への影響が推定できる新モデルを紹介している。このモデルは可動トータル・モデルで� り、日別死亡率時系列の情報を使用して入手不能な情報を推定し、従来のモデルよりも精度の高い推定値を算出する。
リスクの特徴付け | 食料摂取と砒素のメチル化
摂取した無機砒素(InAs)の主要な代謝経路は、メチル化してモノメチル砒素(MMA)とジメチル砒素(DMA)に変化することで� る。MMAの排出量が多い人は、砒素誘発性のがんにかかりやすい可能性が� る。Steinmausら(p. 1153)は、食物による砒素代謝への影響を査定した。たんぱく質の摂取で下位四分位に属する被験者は、上位四分位に属する被験者と比較すると、MMAの排出割合が高く、DMAの排出割合が低かった。この研究結果は、たんぱく質や他の栄養素の摂取量が低い人は、砒素誘発性のがんにかかりやすいという仮説と一致している。
内分泌 | OP曝露による下垂体ホルモン量の変化
有機燐化合物系殺虫剤(OP)は、脳内のアセチルコリンエステラーゼの活性とモノアミンレベルを低減することにより、生殖機能に変化をきたすことが疑われている。� る縦断研究で、Recioら(p. 1160)は、メキシコの農業従事者におけるOP曝露と下垂体血清レベルおよび性ホルモンの関係を評価した。80%を超える被験者の尿サンプルに、少なくとも一つの代謝物質が発見された。多くの被験者における濾胞刺激ホルモン(FSH)が正常範囲を超える濃度で� った。これらのデータと動物研究の結果とを総合すると、OP曝露は視床下部下垂体の内分泌機能を阻害することが推定され、FSHと黄体ホルモンがもっとも影響を受けることが判明した。
トキシコゲノミクス | 溶球ベースの高スループット遺伝子発現アッセイ
マイクロアレイは、特定の生化学プロセスに関連する遺伝子の発見へと導いてくれた。次のステップは、関連遺伝子サブセットの反応に焦点を当てることだ。Naciffら(p. 1164)は、この目的のために、Luminex xMAPシステムをベースとする高感度・高スループットの遺伝子発現アッセイを開発した。厳選したオリゴヌクレオチドを、蛍光コードを付けた微小球と電子対を成すように接続し、次にビオチン化cRNAとハイブリダイズし、シグナル増幅の拡大を行った。このアッセイを使用すると、現行のマイクロアレイ技術と比較して低コストで高スループットが実現できるが、分析可能な総転写数が問題となる。
曝露の評価 | マイクロ波による53BP1とγ-H2AXフォーカスへの影響
携帯電話による非熱マイクロ波の生物学的影響に関するデータは多様で� る。Markováら(p. 1172)は、健康体の人から電磁場過敏症と診断された人までを被験者とし、異なるキャリア周波数における移動通信用グローバルシステム(GSM-Global System for Mobile Communication)のマイクロ波によるリンパ球への影響を調査した。実験では、クロマチン、tumor suppressor p53-binding protein 1 (53BP1)、リン酸化ヒストンH2AX(γ-H2AX)の変化を測定した。キャリア周波数によっては、熱ショックのように、携帯電話からのMWがクロマチン構造と53BP1/γ-H2AX巣に影響を及ぼすものが� った。同じ反応が、過敏症と健康体の両方の被験者のリンパ球で見られた。
混合 | 環境過敏性の研究
Joffresら(p. 1178)は、化学物質に対する過敏症と診断された人と診断されていない人を対象に、安定した測定値の取得、物質への反応の評価、低量曝露に対する症候的・生理的反応のレベルと対応の測定を目的として、順応期間の長さを調査した。化学物質過敏症(事例)を持つ被験者は、基本実験に順応するのに対照者よりも長くかかった。順応の� と、これらのケースは、化学物質を使用した対照者との比較テストおよび対照物質との比較テストにおいて、緊張性皮膚電気反応で統計的に有意な反応を示した。この研究は、化学物質過敏症と診断された被験者のテストでは順応時間の使用が重要だということを示している。
曝露の評価 | 有機燐化合物の使用と屋外空気濃度
Harnlyら(p. 1184)は、多変量線形回帰分析を使用して、クロルピリホス、クロルピリホスオクソン、ダイアジノン、マラチオンの農業への使用と空気中濃度測定値の時間的・空間的関連を調査した。直径3マイル以内での観察日における農業への使用と、2〜4日前の使用は、マラチオンを除くすべての分析対象物に関して、空気中濃度と有意に関連しており、その中でも最もクロルピリホスオクソンが強い関連を示した。細胞、動物、ヒト(特に新生児)に最近見られる中毒症状は、公共衛生に関する懸念を� 付けるもので� る。有機燐化合物およびそのオクソン生成物の農業への使用が、公衆衛生の懸念を引き起こしている曝露源で� る可能性が高い。
リスクの特徴付け | 鉛による健康への影響を示す用量反応曲線
鉛削減による健康への恩恵を経済面で評価すると、通常は線形の用量反応関数を示す。RothenbergとRothenberg (p. 1190)は、7歳の子供たちについて、血中鉛のIQ(知能指数)への影響を調査した7つの鉛研究からのデータを組み合わせた蓄積データセットを再分析した。結果から、ログ線形の鉛・IQ関係が、IQに関する線形・線形の関係よりも、適合度が有意に高いことが分かった。すでに公表されている健康利益モデルにログ線形の鉛・IQ関係を代用すると、1976年〜1999年の米国人の鉛減少による経済面での節約は、線形・線形の用量反応関数を用いた計算(1億4,900万ドル)の2.2倍(3億1,900万ドル)となることが判明した。さらに、子供に対する限度が10
µg/dLでは、多大な障害と経済的出費を防ぐことができないことも判明した。
分析化学 | 砒素測定の画期的方法
バングラデッシュでは、約1千万個� る管井戸の砒素の測定は重要で� る。しかし、資源が不足しているため、世界保健機構のガイドラインで� る保守的な10
µg/Lではなく、比較的高い50
µg/を基準としてAsを測定する低価格フィールド・キットが使用されるようになった。Frisbieら(p. 1196)は、低価格で高感度の研究所用のAs測定手法を開発し、それを銀-ジエチルジチオカルバミン酸[AgSCSN(CH2CH3)2]およびグラファイト炉原子吸光分析(GFAAS)法と比較した。その結果、著者らの手法はAgSCSN(CH2CH3)2法よりも正確で環境にも安全で� り、またGFAAS法よりも正確で低価格で� る。
がん | ホルムアルデヒドとグリコールエーテルのIARCMonographs
Coglianoら(p. 1205)は、ホルムアルデヒド、2-ブトキシエタノール、1-tert-butoxy-2-propanolに関し、IARC Monographs on the Evaluation of the Carcinogenic Risk of Chemicals to Humans(IARC Monographs)を作成するためのワーキンググループの概要を説明している。このワーキンググループは、ヒトと実験動物に見られる十分な証拠に基づき、ホルムアルデヒドはヒトに発がん性が� ると結論付けた。疫学研究では、ホルムアルデヒドが鼻咽腔がんを引き起こすのに十分な証拠、白血病を引き起こすのに「強力だが不十分」な証拠、副鼻腔lがんを引き起こすのに限定された証拠が見られた。またワーキンググループは、2-ブトキシエタノールと1-tert-butoxy-2-propanolはヒトに発がん性を持つと分類することはできないと結論付けた。
環境医学 がん | ALAD多形と成人の脳腫瘍リスク
δ-アミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)の抑制は、脳腫瘍、特に髄膜腫の危険要因で� る。Rajaramanら(p. 1209)は、� る脳腫瘍ケースコントロール研究におけて、ALAD G177C多型(共優性のアレルはALAD1と2)が脳内と神経系の頭蓋内腫瘍リスクと関連しているか否かを調査した。一つ以上のALAD2アレルが髄膜腫の増加リスクと関連しており、男性のほうが女性よりも強い関連を見せた。グリオーマや聴覚神経腫に関しては、ALAD2変異と関連したリスクは見られなかった。
Science Selections, p. A616も参照
子供の健康 胎児の発育 | 空気汚染と出生時の悪影響
WilhelmとRitz (p. 1212)は、1994年〜2000年の出生時の低体重(LBW)と早産の分析結果を拡張し、以前に曝露した一酸化炭素、直径が10
µm未満の微粒子(PM10)、および交通量の影響が、吸収後に微粒子を排気する有毒物質の原因で� るのではないかと推定した。地域の汚染具合によっては結果が低くなる場合も考えられるため、モニター位置から様々な距離に� る住宅地域を検査し、推定リスクを決定した。これによる1994年〜2000年の新結果は、全体として1989年〜1993年の結果を� 付ける形で、COと微粒子曝露をLBWおよび早産と関連付けるもので� った。さらに、この結果は、ロサンゼルスにおけるこれらの汚染物質の地域別不均等の問題に取り組む必要が� るのではないかという疑問も再確認するもので� った。
Science Selections, p. A615も参照
曝露の評価 | DEHP含有医療製品と尿中MEHP
ジ(2-エチルヘキシル)フタル酸(DEHP)を含む医療機器は、新生児の集中治療室(NICUs)で幅広く使用されている。Greenら(p. 1222)は、DEHP含有医療機器の曝露を、DEHPの代謝物質で� るモノ(2-エチルヘキシル)フタル酸 (MEHP)の尿中レベルとの関連で調査した。乳児のDEHP曝露は、使用した医療機器の程度に基づき、低、中、高と分類した。尿中MEHPレベルは、DEHP曝露に従って単調に上昇した。病院の施設と性別調整後の高曝露グループ乳児の尿中MEHPレベルは、低曝露グループ乳児の尿中MEHPレベルの5.1倍で� った。
Science Selections, p. A614も参照
突然変異生成 | 子供のベースライン多角細胞の頻度
Neriら(p. 1226)は、子供のフィールド研究で報告された多角細胞(MN)頻度のメタアナリシスを行い、既存の個別蓄積データ分析結果も利用して、子供のベースラインMN頻度を推定した。メタアナリシスと蓄積データ分析により、1000個の二核細胞につき得られた全体平均は、それぞれ4.48および5.70MNで� った。年齢の効果が明白に検知され、新生児の頻度は有意に低く、性別による差異はなかった。
小論文
神経組織退行変性の疾病 | 神経組織退行変化と環境リスク
米国の人口は老齢化しており、神経組織退行変性の疾病を患う米国人数が増加の一途をたどっている。これらの疾病のうち多くは病因がいまだ不明のため、環境要因がその原因となっている可能性を考慮する必要が� る。この小論文(p. 1230)は、アルツハイマー病、パーキンソン病、パーキンソン症候群(複数組織の後退萎縮症と進行性核上性麻痺)、筋萎縮性側索硬化症などの神経組織退行変性の疾病に関して、環境要因が原因となっている疫学的証拠の概要をまとめている。神経組織退行変性の疾病と環境曝露の関連に関する疫学的証拠は決定的なものではないが、原因と結果の関係が存在する可能性は示唆されている。したがって、さらに詳細な調査が必要で� ることは明白で� る。