環境ニュース
バングラデッシュの深い井戸掘り
現在、バングラデッシュ国民の飲料水は浅い管井戸から得ているが、この水は自然の砒素が大量に含まれているため、この有毒物質への曝露が深刻な公共衛生の問題となっている。NIEHSニュース(p. A374) では、深くて汚染されていない帯水層へ地域の井戸を設置するというコロンビア大学研究者の提案によるアプローチを検証している。
深刻な砒素問題
砒素は歴史を通じて近代・現代にいたるまで、様々な実用性、医療面での有用性を持ってきた。しかし今日では、砒素は世界中の曝露被害者にとって深刻な公共の健康問題として最もよく知られている。また新しい研究では、その他の環境曝露が砒素と相乗効果を生じ、様々な疾病のリスクを増加させる可能性という、これまでに輪をかけた悪い結果も示唆されている。今月の2つのFocus記事のうち一つ(p. A378)は、砒素曝露の危険性に関する最新情報を説明している。
インド最高裁による運動
インドは、猛烈な公害によって種々の「有害廃棄物のるつぼ」という不名誉な異名をとっている。その対応策として、Spheres of Influence (p. A394)に述べられているように、インドの最高裁は有害廃棄物の適正な輸入、輸送、処分の責任が産業内の企業や団体に� るという前代未聞の運動を繰り広げている。
砒素除去手法の考案をリードする
自然発生する砒素は世界中の飲料水に含まれており、水から砒素を取り除く効率的かつ経済的な手法の必要性は切実で� る。多くの手法が、砒素と鉄の間の強力な化学結合を利用して、水からその形成体を引き出そうという試みで� る。今月のInnovations (p. A398)では、安全性と経済性の高い砒素除去を保証する鉄-砒素に関する新理論を検証している。
毒性のヒントを読む
トキシコゲノミクス研究の主要な目的の一つは、疾病の根底に� る生物学的なプロセスを理解することで� る。これは生物学的推理、すなわちコンピュータと統計学を使用してゲノムデータから原因と結果の関係を推理する高度な反復プロセス、の本質で� る。今月の2つ目のFocus記事(p. A388)では、データから疾病を導き出す翻訳の方法をよりよく理解するために、統計学者、バイオインフォマティシスト、生物学者から成るチームが使用しているツールを紹介している。
研究
砒素誘導による細胞内カルシウムの変化
砒素とそのメチル化誘導体は、既知の有毒・発がん性物質で� る。ヒトの体内では、無機ヒ素は代謝プロセスでメチル化して、モノメチル、ジメチル、トリメチルの形へと変換されるが、最近の研究結果ではこのメチル化が毒化への道で� ると示唆している。Floreaら(p. 659)は、砒素とその有機誘導体によるカルシウムのホメオスタシスの誘導妨害、遺伝物質の損傷、アポトーシスによる細胞死の関係を考察している。
被験者が採取した埃のサンプル
屋内のアレルゲン曝露の調査は、家庭へ派遣され埃を収集する専門家へのコストと輸送に限度が� る場合が多い。Arbesら(p. 665)は、郵送された埃収集器と指示書を使用して被験者自身が自宅の埃を採取する可能性を評価するために、この方法によるサンプルを専門家が収集した埃サンプルと比較した。結果として、幾つかの条件さえ揃えば、被験者が収集した埃サンプルは疫学研究と臨床研究について有効で実用的な選択肢になるようだ。
空気汚染と心室性不整脈
疫学研究では、突然の心臓死と微粒子による空気汚染の関連が一貫して立証されている。Dockeryら(p. 670)は、埋め込まれた除細動器による心室頻拍の記録を使用して、生命を脅かす突然の心臓死の発現に空気汚染が果たす役割を査定した。その結果、不整脈の発現から3日以内に再発現した症例では空気汚染と心室性頻拍性の間に統計的に有意な関連が見られた。心室頻拍と、微粒子の質量、一酸化炭素、二酸化窒素、黒色炭素との関連を見ると、オートバイの汚染物質との関連が示唆される。
ビスフェノールAが海馬状隆起のシナプス結合を抑制
ビスフェノールA(BPA)は、プラスチックやエポキシ樹脂の製造に広く使用されているエストロゲン様物質で、プラスチックから浸出されるため、ヒトが重大な曝露を受ける可能性を持つ。MacLuskyら(p. 675)は、卵巣を切除したラットにBPAを投与したところ、海馬状隆起部の錐体ニューロンにエストロゲン誘導による樹状突起型脊椎シナプス形成の量依存的な抑制が見られた。著者らの観察では、米国環境庁の現在の規定によるヒトの一日許容最大曝露量より少ない量において、有意な抑制効果が見られた。環境中のBPA曝露は、知覚機能における正常の性差の発達と発現を阻害する可能性を持つ。
OH-PCBが3-OH-BaPのスルホン化を抑制
スルホン化は第2段階生体内変化反応の顕著な一例で� る。Wangら(p. 680)は、何種類かのpolychlorobiphenylol (OH-PCB)が、ヒトの肝臓細胞質ゾルと一部のcDNA発現によるスルホトランスフェラーゼによる3-水酸基ベンゾ [a] ピレン(3-OH-BaP)のスルホン化を抑制すると報告している。この抑制のメカニズムは非競合で、OH-PCBが酵素の抑制位置で3-OH-BaPと競合することを示唆している。結果から、毒性の可能性を持つPCBの水酸化代謝物と多環式芳香族炭化水素の間の反応が証明され、スルホン化による毒物除去のレベル減少にいたる可能性が出てきた。
天候とコクシジオイデス症
これまで、天候要因とコクシジオイデス症の間には多数の結び付きが確立されてきたが、簡単かつ効率の良い関係の特定は困難で� った。Comrie (p. 688)は曝露日を推定した適応型手法を利用して、天候と埃を菌類の成長と分散に結び付ける仮説を分析し、アリゾナ州ピマ郡におけるそれぞれの役割を推定した。結果、明白な2モードの罹患季節を確認した。曝露季節より1.5〜2年前の例年通り乾燥した初夏における降雨量が、四季を通じたコクシジオイデス症の主要な予測要因で� る。
メリーランドの空中毒物がんリスクの格差
Apelbergら(p. 693)は、米国環境保護局全米空中毒物査定部門によるリスク推定値をメリーランドの人種別・社会経済層別の特徴と結び付け、空中毒物の曝露によるがんリスク推定値の格差を評価した。住民の中でも少数のアフリカ系アメリカ人により定義された最高四分位数に� る国勢調査域は、最低四分位数に� る国勢調査域と比較するとリスクは3倍になる可能性が大きかった。白人数が多くなるに連れてリスクは低減した。多様な指標で測定される社会経済層の最低四分位数に� る国勢調査域は、最高四分位数の国勢調査域と比較するとリスクは10〜100倍で� った。
周産期のVz曝露が性の特徴を変える
Colbertら(p. 700)は、妊娠期のラットにおける抗アンドロゲン性殺菌剤で� るビンクロゾリン(Vz)曝露による周産期のアンドロゲン作用がもたらすニ性差行動の発達への影響を検証した。このラットが産んだ子供の遊び行動を出生後22日目と34日目に調査した。Vz12-mg/kg投与群では、雄の子供はコントロールと比較して、遊び行動が有意に増加した。大人の雄は、どの投与量でも勃起が有意に低下した。周産期のVzは、明白な構造的変化はきたさない暴露量でも、アンドロゲンを介する行動の発達を阻害する。
ATRがモノアミン細胞の機能に影響
中枢神経系の2つの長く主要なドーパミン作用域等のカテコールアミンの関与する組織は、重要な行動機能の仲介に主要な役割を果たしている。Rodriguezら(p. 708) は、アトラジン(ATR)がラットの脳のドーパミン作用域に悪影響を与えるという仮説を検証した。その結果、ATRが動作、さらには知覚や実行機能の仲介に非常に重要なドーパミン作用域で、神経毒を作る可能性が示された。
ラウンドアップのヒトの細胞とアロマターゼへの影響
ラウンドアップは、世界中で使われているグリホサートをベースにした除草剤で� る。Richardら(p. 716)は、グリホサートが、農薬での使用より低い濃度でも18時間以内で� ればヒトの胎盤のJEG3細胞に対して毒性を持つことを示している。この影響は、濃度や時間が増すに連れて増大し、ラウンドアップの補助剤が� る場合にも増大する。このグリホサート・ベースの除草剤はアロマターゼの活動を妨害するが、グリホサートの効果はミクロソームや細胞培養組織の中でのラウンドアップとの形成によって促進される。ラウンドアップの補助剤は、グリホサートの生物学的利用能や生物学的集積力を高める可能性が� る。(Science Selections, p. A403 も参照)
魚のエストロゲン混合効果の予測
Brianら(p. 721)は、北米産のコイ科の雄魚fathead minnowにビテロジェニンを誘導し、5種類のエストロゲン様化学物質の多要素混合体の総合的効果を調査した。濃度反応グラフを各物質ごとに作成した。次に各物質をすべて等力濃度で混合し、これを固定比率デザインを用いてテストした。結果から、エストロゲン様化学物質は共同で増加的に作用する能力を持ち、総合的な効果は濃度加算により予測できることが証明された。
タングステン合金が引き起こす横紋筋肉腫
劣化ウランと鉛による健康と環境への影響が懸念された結果、軍需品の材料として用いられてきたこれらの金属の代わりにタングステン合金(WA)が多くの国で使用されるようになった。Kalinichら(p. 729)は、ラットにWAの小弾丸を4個(低量)もしくは20個(大量)埋め込んだ。大量のWA埋め込みを受けたラットには、埋め込みから4〜5ヶ月後に小弾丸をとりまく形で急成長する腫瘍が発現した。低量のWA埋め込みを受けたラットとニッケルの埋め込みを受けたラットにも腫瘍が発現したが、そのペースは遅かった。不活性制御金属のタンタルを埋め込んだラットには腫瘍は発現しなかった。結果から、タングステンとタングステン基合金には更なる研究が必要で� ると判明した。(Science Selections, p. A403 も参照)
オゾンと最大呼気流量
ChanとWu (p. 735)は、2001年に6週間にわたり毎日2回、郵便配達員の最大呼気流量(PEFR)を測定した。各郵便配達員のオゾン、空気力学的直径が10 オm未満の微粒子、二酸化窒素への一日曝露量を、その人の配達地域の中心に設置した空気観測点で見積った。性別、年齢、病歴、気温、湿度の調整後、線形混合効果モデルを使用して空気汚染曝露とPEFRの関係を推定した。現行の空気品質基準と職業曝露の限界以下のオゾン濃度に曝露している郵便配達員には、肺機能の低下が見られた。
妊婦のWTC関連曝露
Wolffら(p. 739)は、2001年9月11日当日またはその直後に世界貿易センター(WTC)の間近または近辺にいた妊婦の環境暴露を特定した。曝露は、WTC周囲のオゾン中で過ごした時間を見積り、plume reconstruction modelingに基づいて曝露指標(EI)を作成することにより査定した。一日のEIは、9月11日直後が最高で、その後4週間で低くなったがばらつきも出てきた。著者らは、WTC崩壊後に近隣にいた人たちの極度の曝露について報告しており、影響を受けやすい妊婦間で無職業の人々の曝露に関する情報を提供している。
Pb曝露の骨格修復への影響
過去に鉛曝露を経験した人たちは、骨代謝や骨吸収の期間に血中のPb濃度が上がる。Pbは骨芽細胞、破骨細胞、軟骨細胞に影響を及ぼし、骨粗� 症と関連しているが、骨格修復への影響は調査されていない。Carmoucheら(p. 749)は、環境曝露と同様の血中Pb濃度を得るために、飲み水に様々な濃度のPbアセテートをC57/B6マウスに与えて曝露した。結果から、環境曝露と同等の濃度のPb曝露は骨折の治癒を長引かせ、環境曝露以上の濃度では軟骨内骨化の進行抑制により繊維質癒着不能を引き起こすことが判明した。
危険廃棄物集積地と冠動脈硬化性心疾患
SergeevとCarpenter (p. 756)は、ニューヨークに約900� る危険廃棄物集積所を持つ地域やその隣接地域の郵便番号を調査し、それぞれの主要汚染物質を特定した。著者らは、年齢、性別、人種、収入、健康保険の条件の調整後、負の二項モデルを使用して、各郵便番号の地域に居住することによる冠動脈硬化性心疾患(CHD)患者と急性心筋梗塞(AMI)患者の退院率への影響を査定した。永続的な有機汚染物質で汚染されている郵便番号の地域に住むCHDとAMIの患者の退院率は、清潔な郵便番号の地域に住む患者に比べて有意に高かった。
環境医療
急性農薬中毒の慢性後遺症
Rold疣-Tapiaら(p. 762)は、2件の偶発的なコリンエステラーゼ抑制剤(カルバミン酸塩)中毒のケースについて記述している。両方のケースとも、医学的診断ではovercholinergic syndrome(過度コリン作用症候群)と断定された。急性中毒からの回復後、患者はそれぞれ3ヶ月と12ヶ月の間、神経心理学的な集中検査を受けた。検査の結果、中毒後3ヶ月間は、注意力、記憶力、知覚、運動機能という各領域の認知機能障害が判明した。一年後、脳の磁気共鳴画像やコンピュータによるX線断層撮影スキャンの結果は通常範囲内で� ると解釈されたが、中毒の後遺症は続いていた。
過敏性肺炎
Beckettら(p. 767)は、過去には健康で、自動車工場で機械のオペレーターとして働いた男性のケースを紹介している。医学的評価では肺機能のテストで異常が示され、肺の生検では過敏性肺炎を示した。患者の疾病の原因を追跡すると職場環境に行き着いた。患者は金属細工液曝露の部署から異動したが、再曝露を受けると症状が再発した。肺機能の永久消耗の進行が見られた。患者の職場を調査したところ、金属細工液(切断オイル)からMycobacterium chelonae が生長していたことが判明した。曝露部署から完全に異動したことで、患者の肺機能は安定した状態が続いた。
MBOCA曝露を受けた作業者の膀胱がん
52歳の化学物質を扱う作業員が、2年間の発作性顕微血尿および2ヶ月間の大量の血尿を伴う夜間尿(一晩で最高5回)で入院した。経静脈性尿路造影撮影では膀胱に塊を見つけ、膀胱鏡生検で顕著な壊死を伴う侵襲性移行細胞がんが見られた。患者は、硬化剤で� る4,4'-メチレンビス(2-クロロアニリン)(MBOCA)を製造する会社で14年間働いていた。Liuら(p. 771) によるこの調査結果は、MBOCAがヒトのがん誘発物質で� るという理論をサポートしている。皮膚保護具と呼吸器の安全な利用が、作業者のMBOCA曝露を防止するために義務付けられている。
子供の健康
CYT19子供における砒素代謝との遺伝子的関連
Mezaら(p. 775)は、メキシコはソノラのヤクイバレーに居住する砒素曝露を受けた被験者を対象として、PNP、GSTO、CYT19の3種類の砒素代謝候補遺伝子における尿中砒素代謝レベルとの遺伝子学的関連の調査を行い、その結果を報告している。初期の表現型には、尿中無機質砒素(III)の対無機質砒素(V)比率、尿中ジメチル化砒素(V)の対モノメチル砒素(V)比率が含まれた。調査データは、砒素薬理遺伝学と砒素毒性学の両方にとって重要なCYT19と砒素代謝の間で発達段階に調節される強力な遺伝子学的関連を示している。(Science Selections, p. A404 も参照)
子供におけるデルタメトリンの薬物代謝
Ortiz-P駻ezら(p. 782) は、土壌サンプル中のデルタメトリン濃度を調査し、曝露を受けた子供たちの体内に� るデルタメトリンの薬物代謝データを入手した。スプレー噴射後は、土壌サンプル中のデルタメトリンの屋内濃度が屋外濃度より高くなった。著者らは、コメットアッセイを使用して、屋内でのデルタメトリンのスプレー噴射前とその24時間後に、子供たちのDNA損傷の証拠が見られないことを確認した。著者らはまた、土壌のデルタメトリン濃度と尿中の代謝物質濃度の間にも何らの関係も見出さなかった。(Science Selections, p. A402 も参照)
溶剤と幼児期の白血病
Infante-Rivardら(p. 787)は、幼児期の急性リンパ性白血病について、患者と対照者を年齢と性別で合わせた人口ベースのケースコントロール研究を行った。母親の職場と家庭での溶剤曝露を推定した。曝露量の増加に伴ったリスクの増加は見られなかったが、アルカンだけは例外で有意な傾向が見られた。家庭での曝露はリスクの増加とは関連していなかった。また調査結果は、母親の職場での溶剤曝露は子供の白血病に重要な役割を果たしてはいないことを示している。
米国3都市における土壌鉛、血中鉛と気候
Laidlawら(p. 793)は、インディアナ州インディアナポリス、ニューヨーク州シラキュース、ルイジアナ州ニューオーリンズで、小児血中鉛(BPb)、天候、土壌の水分、埃の時間関係について調査した。子供の月間平均BPbレベルは、いつくかの独立した変数に対して回帰した。� る概念モデルは、気温が高く蒸発散量が増えると、土壌の水分は減少し、土埃が堆積することを示唆している。すなわち、子供のPb曝露の季節による変化は、天候の土壌への影響とPb堆積量の変化によって引き起こされるPbの吸入がその原因で� ると思われる。
トキシコゲノミクス
ベンゼン曝露の遺伝子発現プロフィール
産業用化学物質およびガソリン成分で� るベンゼンは白血病の原因として確立されている。Forrestら(p. 801)は、マイクロアレイとリアルタイム・PCRを使用して、職業曝露が顕著な作業者のグループを対象に末梢血単核細胞遺伝子発現に対するベンゼン曝露の影響を調査した。結果は、CXCL16、ZNF331、JUN、PF4 の遺伝子変化がベンゼン曝露のバイオマーカーで� る可能性を示している。