環境ニュース
懇談会のまとめ
NIEHS News (p. A28) では、NIEHSが共同スポンサーで� る環境衛生科学、研究、および医学についての医学学会懇談会の今年1年間の活動を振り返っている。今年は、環境衛生科学の将来に関する生産的な討議が非常に充実していた。他のニュースでは、研究所主催の最近のシンポジウムで、環境中に� る喘息の原因に関するデータが発表されたことが挙げられる。
聞こえてくる音:騒音公害
音は我々を取り囲んでいる。音が大きくなったり、長く続いたり、その他の迷惑な形になると、音は「騒音」に変わる。Focus (p. A34)では、世界の騒音について考察し、なぜ世界がこのように騒がしくなったのか、またそれが我々の健康にどのような影響を及ぼしているかを検討している。
政府は静か過ぎる? ![建物の頭上を飛ぶジェット機](jet.jpg)
米国での騒音レベルが上がるにつれ、人々が騒音公害の犠牲になっていることが明白になってきた。これは受動喫煙の聴覚版で、改善の手段が見つからないことが多い。米国環境保護局は一度は騒音規制を担当する事務室を設けたものの、大統領の改革により、騒音関係諸法に対する連邦政府の予算の割当が打ち切られた。Spheres of Influence (p. A42)では、現在の議会が騒音をどのように捉えれているかについて検証している。
騒音の削減
騒音が問題だということは誰もが認めている。ではどんな対策が� るだろうか?Innovations (p. A46)では、航空機、高速道路、芝� 機等の騒音源からの騒音の発生を低減するために使用されているテクニックやテクノロジーの一部を紹介している。
研究
放射線と慢性リンパ球白血病
米国政府は、核兵器工場で放射能に暴露し、がんにかかった人々への補償に関する規則を施行した。慢性リンパ球白血病(CLL)は放射能誘発性のがんに分類されていないため、補償の対象外で� る。Richardsonら(p. 1) は、CLLの放射能誘発性に関する分子的、臨床的、疫学的証拠を検証している。電離放射能曝露がCLLのリスクを高めると予測される機械論的な理論基盤は� り、また疫学的調査結果も数十年にわたるCLLの潜伏期間と罹病期間に続く死亡率と一致している。著者らは、CLLが放射能非誘発性のがんで� るという強力な証拠は何も見出さなかった。
結腸細菌叢からのエストロゲンPAH代謝物質
多環芳香族炭化水素(PAH)は食物摂取を通じて人体に入るが、ヒトの腸内細菌叢によるPAHの形質転換については何も知られていない。胃腸シミュレータを使用して、Van de Wieleら(p. 6) は、ヒトの腸内細菌叢がPAHを生物的に活性化し、エストロゲン代謝物質に変換できるということを証明している。PAH混合物が胃と小腸で消化された段階では、ヒトのエストロゲン受容体バイオアッセイではエストロゲン効果を示さなかった。一方、同じPAHが結腸で消化されるとエストロゲン性を示した。結腸の細菌叢を非活性化したところ、エストロゲン効果が消えた。
ボラの血中ブレベトキシン
ヒトと水中動物の血液中のブレベトキシンを信頼できる方法で定期的に観察することは非常に重要だ。Woofterら(p. 11) は、ブレベトキシンを生成する渦鞭毛藻Karenia brevisへの曝露中の血中ブレベトキシンを特定するために、実験動物としてボラを使用した。指定時間に血液サンプルを血液採取カードに収集し、放射免疫検定法を使用してブレベトキシンを分析した。この研究では、魚類の血中ブレベトキシン・レベルの観察に効果的な方法が判明し、赤潮に影響を受けている他の動物のブレベトキシンを特定する手段が提供された。
MXR抑止剤としての合成麝香
合成麝香がヒトの細胞と魚介類等の海洋有機体内で発見されているが、毒性と環境面でのリスクは一般に低いとされている。しかし、LuckenbachとEpel (p. 17) は、nitromuskと多環式麝香がイガイMytilus californianusのひだで、multixenobiotic resistance (MXR)を与える多種薬物流出における運搬活動を抑制することを証明している。2時間という短時間で麝香曝露による抑制効果が見られ、24時間と48時間のきれいな海水での回復期間後の逆行は僅かだった。(p. A50のScience Selectionsも参照)
アスベスト曝露に対する自己免疫反応
体内の自己免疫反応は、二酸化珪素等の結晶体粒子への曝露と関連している。Pfauら(p. 25) は、アスベストで汚染されているバーミキュライトの曝露を受けたモンタナ州リビーで収集した血清サンプルと、年齢・性別を対応させたモンタナ州ミズーラで収集したサンプルを比較し、マーカーを使用して自己免疫反応の悪化の可能性を模索した。リビーのサンプルでは、抗核抗体滴定濃度と、肺疾患および曝露の程度の間に正比例関係が見られた。この結果は、アスベスト曝露は自己免疫反応と関連しているという仮定を支持するもので、アスベスト関連の疾患のプロセスとの関係を示唆している。(p. A51のScience Selectionsも参照)
血中鉛とホモシステイン
鉛とホモシステインはどちらも、心血管疾患と認知機能障害と関連している。Schaferら(p. 31) は、Baltimore Memory Studyの被験者の横断分析データを使用して、血中鉛、頸骨の鉛、ホモシステインのレベルの関係を調査した。年齢、性別、人種、教育レベル、喫煙、飲酒、身体質量の調整後の結果では、血中鉛が1.0 µg/dL増加するごとにホモシステインのレベルが0.35 µmol/L増加することが判明した。結果から、ホモシステインは心血管系と中枢神経系に鉛の影響を及ぼす原因で� る可能性が示唆される。
鉛作業者の尿中酸
尿中酸と鉛は、従来の認識よりも低濃度で腎毒性を持っている可能性が� る。Weaverら (p. 36) は、鉛のバイオマーカーが尿中酸と関連しているか否か、また鉛量と腎臓への影響の関係が尿中酸に対する調整後に変化するか否かを特定するために、現在と元の鉛労働者のデータを分析した。これらのデータから、高齢労働者に鉛を原因とする尿中酸の増加が見られると判断できる。尿中酸は、鉛関連の腎毒性の原因の一つで� るが、唯一の原因ではない。
ダイオキシンのTEF評価
ダイオキシン毒性等価係数(TEF)は、ダイオキシン様化合物の複合効果を、有効性を調整した用量相加手法による組み合わせに基づいて予測できるということを仮定している。Walkerら(p. 43) は、2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ダイオキシン (TCDD)、3,3´,4,4´,5-ペンタクロロビフェニル(PCB-126)、2,3,4,7,8-ペンタクロロジベンゾフラン(PeCDF)、またはこれらの化合物を用い、齧歯動物のがんの2年間実験バイオアッセイをTEF手法で評価した。用量作用は、3種類の物質個別の場合と混合した場合の調査で同じ結果を示し、ダイオキシンのがんリスク査定に関するTEF手法の使用を支持するものだった。
グリホサートとがんの発生
グリホサートは、世界でも最も頻繁に使用されている農薬の1つで� り、数件の疫学報告により健康への悪影響の可能性が示唆されている。De Roosら(p. 49) は、認可されている農薬散布機器のコホート研究で� る農業健康調査(AHS-Agricultural Health Study)におけるグリホサート曝露とがん発生の関連を評価している。グリホサート曝露は、全体として見たがん発生とも、調査対象とした殆どのがんのサブタイプとも関連していなかった。複数の骨髄腫発生との関連が示唆されたため、AHSでの研究件数が増えていくに従って、本件もフォローアップされたい。
Co-Solvent放出の土壌中微生物への影響
Ramakrishnanら(p. 55) は、元ドライクリーニング工場が� った場所で、エタノール放出の直後と2年後に、帯水層に存在してトリクロロエチレンを減成させる微生物へのエタノール放出の影響を査定した。その結果、エタノールの影響は予測を下回ることが判明し、エタノールがトリクロロエチレンの微生物に対する毒性を緩和することが示唆された。
炭化水素による無機性生物の生物分解バイオマーカー
基本調査が、無酸素地下水中の石油に関連した汚染物質のin situの生物分解を検知する手法の開発に発展した。YoungとPhelps (p. 62) は、2-methylbenzylsuccinateが無機性生物のトルエンによる生物分解に関する信頼性の高い指標として使用可能で� ることを証明している。フィールド研究により、このバイオマーカーは、活発な生物分解が予測されるエリアでフィールドサンプル中で検知可能で� ることを確認した。ナフタリンでは、活性のin situ の生物分解のエリアを特定するためのフィールドで使用可能な3つのバイオマーカー(2-naphthoic acid、tetrahydro-2-naphthoic acid、hexahydro-2-naphthoic acid)が特定された。
飲料水中のウラニウムと骨
摂取したウラニウムは骨に蓄積され、実験動物の骨の代謝に影響を与える。Kurttioら(p. 68) は、自然のウラニウム含有量が多い場所で基岩に掘った井戸からの水を飲用した26〜83歳の男女について調査した。結果は、血清Iの型コラーゲンcarboxy-terminal telopeptidとosteocalcinが増加すると男性では増加ウラニウム曝露との関連の可能性が示唆されるが、女性では類似の関係は見られなかった。ヒトではウラニウムの科学的毒性の標的は骨で� る可能性が� るため、詳細な評価が望まれる。
8時間オゾン基準を達成する効果
2000〜2002年まで毎年、米国のオゾンモニターのうち36〜56%が、最高から4番目に� たる8時間オゾン集中の80ppbのオゾン基準を満たすことができなかった。Hubbellら(p. 73) は、これらのモニターがオゾン基準を達成することによる健康への利益を見積もった。これらの3年間を通じた健康に対する単純平均的な利益には、流産800件、4,500件の入院や救急室での介護、900,000件の学校欠席、その他多くの活動規制の解消が挙げられる。
PCB、食物脂肪、アテローム性動脈硬化
食物脂肪はポリ塩化ビフェニル(PCB)の細胞毒性を変化させ、coplanar PCBは血管疾患の炎症プロセスを誘発する可能性が� る。Hennigら(p. 83) は、オリーブオイル� るいはコーンオイルを添加した食物を摂取したLDL-R-/-マウスにPCB-77を注入することにより、食物脂肪のPCB反応は脂肪の種類によるという仮定をテストした。大動脈弓の血管細胞のadhesion molecule-1 expressionは、オリーブオイルを摂取したマウスには検知できなかったが、PCB-77の場合には明確に検知された。これらの研究結果は、栄養素と環境汚染物質の相互作用が炎症性疾患の病理にどのような影響を与えるかを理解する上で意味が� る。
大気中微粒子と死亡率の曝露反応関係
Samoliら(p. 88) は、欧州22の都市で大気中微粒子と死亡率の曝露反応関係を調査した。この関係の評価には線形モデルの使用が適切で� る。各都市で異なる土地固有の成分が発見されたが、その一部は実際の原因を反映するもので、これらは大気汚染物質の混合物、気候、市民の健康状態を特徴付ける要素によって説明できる。
環境医療
鉄道作業員の扁平上皮細胞がん
Carlstenら(p. 96) は、主治医に右ひざの痛んだ皮膚に1つ発生した紅斑を見せた50歳の男性鉄道作業員について説明している。生検ではin situの扁平上皮細胞がんと判明した。問題の箇所は、日光からは保護されていたが、30年間クレオソートの浸み込んだ衣類と関連付けられた。著者らは、職業によるクレオソート曝露と曝露期間を含めて、皮膚科とその他の悪性腫瘍を検討した。その他の悪性の可能が� る多環芳香族炭化水素が存在せず、日光から保護されていたことから、本件は固有のケースで� るといえる。
子供の健康
ETS曝露と子供の知覚
Yoltonら(p. 98) は、1988年〜1994年に行われた第3回全米健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey)結果を利用して、米国の6〜16歳の子供を対象に環境中煙草煙(ETC)曝露と知覚能力の関係について調査した。ログ線形分析が低量曝露での知覚障害の上向き勾配を特徴付けるのに最低で� った。結果を見ると、子供のETS曝露と知覚障害の間には反比例の関係が� り、曝露量が最低のときでも同じことがいえる。(p. A50のScience Selectionsも参照)
子供の骨中鉛と鉛量削減の効果
子供の自宅でも鉛曝露量を削減する方策は、血中鉛レベルの限られた削減に終わることがしばしばで� る。Gwiazdaら(p. 104) は、家庭での鉛量を削減する努力を払った後で骨中鉛が血液に及ぼす影響の度合いを見積るための、同位体アプローチを紹介している。調査結果は件数が限られていたが、骨中鉛の血液への流出は鉛摂取量の削減から期待されるレベルの血中鉛の削減を大きく阻止するという仮説を支持していた。
フッ化物曝露と子供のリスク
米国では過去30年間、歯のフッ素中毒が増加してきた。ErdalとBuchanan (p. 111) は、米国環境保護局で通常使用されている数学モデルを使用して、水道水にフッ素を含んでいる地域と含んでいない地域に住んでいる子供たちを対象として、フッ素中毒の原因で� る全曝露経路を通じた毎日の平均フッ素摂取量を見積もった。論理上の見積りは測定値に基づいた見積りと大まかに合致しており、一部の子供たちがフッ素中毒のリスクを持っている可能性を示唆している。
[目次]
前回更新日:2004年12月15日