環境ニュース
海洋およびヒト健康センター
NIEHSとNational Science Foundation(全米科学財団)は、今月のNIEHSニュース(p. A468)に記載されている通り、生態学、海洋学、海洋病原体遺伝学を研究するために4つの新センター開設を発表した。これらのセンターでは、海洋が人類に及ぼす有益な影響と悪影響の両方を研究する。
海に� るのは魚だけではない
街を歩いている人に「海の幸」の意味を問うと、おそらくその人の好きな魚介類のメニューを嬉しそうに教えてくれるだろう。しかし、海洋は私たちに食材以上のものを多く与えてくれる。Focus(p. A472) では、私たちが海の賄い役としての責任を真剣に受け止める場合にのみ海がもたらしてくれる特別な利益を検証している。
内部スクープ:EPAリスク査定
Spheres of Influence (p. A482) では、環境保護局のリスク査定プロセスの長所と欠点に関して内部の見方を知るために何百人という職員からコメントを得ることによって作成し、同局が最近発行した内部資料を検討している。
甲殻類の知覚
今月の Innovations (p. A486) では、擬似生物RoboLobster(ロブスターの鋭い嗅覚を模倣したアルゴリズムを有するロボット)について記述している。将来、RoboLobsterは海洋汚染物質の追跡や嗅覚による不発弾の発見等の水中検知作業が可能となるかも知れない。
研究
バングラデッシュのパブナでの� り得ない交絡因子、アンチモン
最近のin vitro 研究の結果、飲料水中の砒素に関する人体の研究においてアンチモンが交絡因子として役割を果たしている可能性が� ることが分かった。McCartyら(p. 809) は、バングラデッシュ、パブナの管井戸水中のアンチモンと砒素の濃度を測定した。彼等はアンチモンと砒素の濃度を調査するために、245の管井戸から採取した水のサンプルを分析した。砒素濃度は< 1〜747 µg/Lで、アンチモン濃度は< 1 µg/Lで� った。
2種類のディーゼルの話
主にがん/遺伝毒性や非がん(例:肺の炎症や最終的には喘息)に興味を持っている毒性学者が、2種類のディーゼル排気微粒子(DEPs)を使用して研究を行っている。これらの標準的サンプル間の違いに基づき、Arey (p. 812) は、より多様な種類のDEPと環境サンプルに関する総合的な健康リスク査定を行うために、毒性学者、化学分析者、環境化学者、自動車エンジニア、燃焼エンジニアによる協力がこれまで以上に必要で� ると指摘している。
DEPの突然変異誘発力
ディーゼル排気微粒子(DEP)に関する多くの肺研究では、未報告の突然変異誘発性を持つ自動車により生成されたサンプル(A-DEP)を使用してきた。これとは対照的に、多くのDEPにおける突然変異誘発性研究では、肺研究では� まり調査されていないフォークリフトにより生成されたサンプル(SRM 2975)を使用してきた。DeMariniら(p. 814) は、A-DEPとSRM 2975両方の突然変異誘発性をサルモネラ属を用いてバイオアッセイ法で評価した。A-DEPはSRM 2975よりも突然変異誘発性が強く、PAHタイプの突然変異誘発活性は227倍、ニトロ化タイプの突然変異誘発活性は8〜45倍多かった。これらの結果は、多種のDEPサンプルに関する詳細な研究がさらに必要で� るということを強調するもので� った。( p. A490のScience Selections も参照)
ディーゼルの肺毒性比較
自動車により生成されたディーゼル排気微粒子(A-DEP)のサンプルとフォークリフトにより生成された標準参考物質(SRM 2975)が、人体への影響に関する研究の主流を占めている。Singhら(p. 820) は、マウスの肺毒性テストとA-DEPおよびSRM 2975の物理的分析および化学的分析を組み合わせて行った。A-DEPはSRM 2975と比較して、抽出可能な有機物質を> 10倍以上、また原子状態の炭素を1/6未満持っていた。さらに両物質とも軽い亜急性肺障害を引き起こした。A-DEPはマクロファージの流入と活性化を誘発し、SRM 2975は多形核細胞炎症を増長させた。 A-DEPは、インターロイキン(IL)-6、Tumor necrosis factor α (TNFα)、Macrophage inhibitory protein-2、Th2サイトカインIL-5を増加させ、一方でSRM 2975は IL-6を増加させたのみで� った。 (p. A490のScience Selectionsも参照)
北極熊のPCB、甲状腺ホルモン、レチノール
北極熊(学名:Ursus maritimus)は、北極圏の植物連鎖の中で最も上に位置する捕食者で� る。Braathenら(p. 826) は、過去一年以内に出産した雌、それ以外の雌、雄の3グループについて、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、甲状腺ホルモン(TH)、レチノールの関係を研究した。PCBはどのグループにおいてもレチノールに対し影響を及ぼさなかった。PCBは雌の北極熊において5種のTHに影響を及ぼしたが、雄では2種のTHに影響を及ぼしたのみで� った。これらの結果より雌の北極熊の方が雌よりもTHに関連したPCBの影響を受けやすいと考えられる。
ぺットとゴキブリのアレルゲン予測のためのアンケート調査
Gehringら(p. 834) は、、ハウスダスト中のアレルゲン濃度を予測するアンケート調査の正確度を査定した。ハウスダスト中のアレルゲン濃度の測定にはELISAを使用し、飼い猫や犬の有無とゴキブリの有無に関するアンケート調査への回答と関連付けた。アンケート調査から得た過去のペット所有の情報によってペット・アレルゲンへの曝露査定は改善できるが、疫学的にはアレルゲン濃度の測定は必要で� る。
湾岸戦争復員軍人の細胞・体液免疫性の異常
VojdaniとThrasher (p. 840) は、免疫アッセイを使用して100名の湾岸戦争復員軍人患者と100名の健常者を対象として調査を行った。健常者との比較で、これらの患者には湾岸戦争での活動から2〜8年後に環境要因への暴露と一致する幾つかの免疫変化が検出された。またこれらの患者は、健常者との比較で調査されたウイルス抗体価の滴定濃度が非常に高かった(p < 0.001)。これらの結果から、湾岸戦争症候群は、慢性疲労症候群と関連している可能性を持つ免疫機能変化を伴う多面的疾病で� ると考えられる。
被験者の多様性と低用量の内分泌撹乱毒性
ラットの子宮肥大アッセイを用いた低用量内分泌撹乱作用は、各研究所で独立して確認するのは困難で� ると証明された。Ashbyら(p. 847) は、ビスフェノールAやコントロールの子宮重量の減少に関連した実験に基づいて弱効果もしくは低用量の内分泌効果の認められた他の報告済み例を分析した。その結果、コントロール間の多様性がデータの解釈や確認に大きな障害となることが判明した。彼等は、実験デザインに関する提案を記述している。
有機塩素系殺虫剤と非ホジキンリンパ腫
Quintanaら(p. 854) は、環境保護局による全米ヒト脂肪組織調査で1969〜1983年の間に収集されたデータを使用して、非ホジキンリンパ腫(NHL)と有機塩素系殺虫剤の関係を調査した。最初の被験者のグループから、175件のNHLのケースが特定され、481名の被験者と照合された。有機塩素系殺虫剤の残余ヘプタクロルエポキシドがNHL、最高レベルのジエルドリン、オキシクロルデン、p、p´-DDE、β-ベンゼンヘキサクロリドと関連付けられた。殺虫剤が環境中に長く残存することから、これらの研究結果は現在でも有効だと考えられる。
両生類の胚芽におけるE2 とCd 毒性
環境中の生物は、複数の有毒物質が予期しなかった形で組み合わさることにより悪影響を受ける可能性が� る。Fridmanら(p. 862) は、南アメリカヒキガエル(学名:Bufo arenarum)の胚芽を17β-エストラジオールのみと、17β-エストラジオールとカドミウムの化合物に曝露させた。結果は、エストロゲン様内分泌撹乱物質が、カドミウムとともに両生類の胚芽中へ毒効果を高めることを示唆している。
スチレン曝露への個別反応
Vodickaら(p. 867) は、職場でのスチレン暴露の効果を調べるため、プラスチック作業者と通常の被験者における染色体異常、二核小核細胞、末梢血管リンパ球のDNA一重鎖切断、DNA修復等の頻度を検証した。スチレン暴露と染色体異常の間には明らかな関係は何も見られなかった。二核小核細胞はスチレン暴露と� る程度の関係が見られた。
曝露と一重鎖切断は反比例の関係に� った。
曝露とDNA修復の間には正比例の関係が見られ、修復経路がスチレン曝露によって誘発されている可能性を示唆している。
微粒子が換気異常を誘発
従来からヒトに見られた心肺症は、環境中微粒子の悪影響を受ける可能性を高める。Gardnerら(p. 872) は、モノクロタリン(MCT)によって誘発されるラットの肺高血圧症モデルにおける換気機能への石炭燃焼産物(ROFA)の影響を検証した。ROFA曝露は、多くはMCT処置により高められた幾つかの換気機能要因における組織構造的な変化や異常を誘発した。
喘息患者の超微粒子沈着
空気中に� る超微粒子(直径100 nm未満)が、身体への影響を増長している可能性が� る。Chalupaら(p. 879) 喘息患者の休憩時と活動時の自然呼吸中における平均直径23 nmと幾何学的標準偏差1.6の炭素超微粒子の沈着について調査した。粒子のサイズが小さくなる時、また活動時に沈着の数値は増加した。活動時には沈着の実験データがモデル予想を上回った。休憩時の沈着は、事前に研究対象となった健常者よりも、喘息患者の方が大きかった。
化学的に汚染された貝類の危険性
貝は化学的汚染物質を蓄積するため、消費者に危険を与える可能性が� る。Gagnonら(p. 883) は、10種類の金属、22種類の多環式芳香性炭化水素、14種類のポリ塩化ビフェニル(PCB)、10種類の塩素化殺虫剤について162人の収穫者と貝を調査した。その後、調査と報告されている結果に基づいた4つの消費シナリオを使用して、発がんと非発がんの危険性を評価した。無機の砒素とPCBは、4つのシナリオのそれぞれで許容できるとみなされている環境曝露レベルを超える発がんの危険性に十分な濃度を呈していた( p. A491のScience Selections も参照)
乳がんの危険性とGISを使用した殺虫剤曝露
多くの殺虫剤が、乳がんのリスク要因として知られているエストロゲンに類似している。Brodyら(p. 889) は、1988〜1995年の間に乳がんと診断された女性と健常被験者を対象とした人口集団に基づいたケースコントロール研究で、地理情報システム(GIS)技術を使用して、禁止されている殺虫剤と現在使用されている殺虫剤への経年曝露を査定した。殺虫剤の使用と乳がんの関係には一貫性の� るパターンは見られなかった。クランベリーの湿地に空中散布された高持続性の殺虫剤と、樹木や耕作用に散布された低持続性の殺虫剤と関連しているリスクはいくらか高まった(修正済みオッズ比 < 1.8)。
ホワイトパーチの性間生殖腺
Kavanaghら(p. 898) は、カナダのオンタリオ湖西部のCootes Paradise地区で1998年に魚類を収集し、その年に生まれた稚魚の生殖腺異常を評価した。彼等は、キンギョ(学名:Carassius auratus)、コイ(学名:Cyprinus carpio)、コノシロ(学名:Dorosoma cepedianum)、ブラウンブルヘッド(学名:Ictalurus ameiurus)、パンプキンシード(学名:Lepomis gibbosus)、ブルーギル(学名:Lepomis macrochirus)における生殖腺異常は観察されなかった。しかし、性間生殖腺はホワイトパーチ(学名:Morone americana)に観察された。2002年春にCootes Paradiseのホワイトパーチの雄成魚から収集した血漿の分析よりビテロジェニン濃度が高いことが判明したが、これはエストロゲン化合物への曝露を示している。
ラットの膵外分泌へのダイオキシンの効果
雌のラットの膵臓に与えるダイオキシン� るいはダイオキシン様化合物への慢性的曝露効果が、Nyskaらによって評価された(p. 903)。ラットは、TCDD、3、3´、4、4´、5-ペンタクロロビフェニル(PCB-126)、2、3、4、7、8-ペンタクロロジベンゾフラン(PeCDF)、またはこれらの物質の毒性等価係数(TEF)化合物を用い、最高2年間の経口投与を受けた。膵腺房の腺腫と腺癌が、低頻度(しかし従来のデータベースよりは高頻度)では� るがTCDD、PeCDF、TEF混合のグループに見られた。結果は、膵腺房がダイオキシンとダイオキシン様化合物の標的で� ることを示している。
環境医療
鉱石のボート上での水銀曝露
水銀は水上交易産業でバラストモニターに使用されている。RoachとBusch(p. 910) は、 密閉されている倉庫で水銀をビンからこぼしてしまい水銀の蒸気に曝露した2名の海洋訓練生の事例について説明している。そのうち1名の水銀量は最初4 ng/mLで一時的臨床中毒にかかったが、現場から離れ、シャワーを浴び、衣類をすべて処分したのちに回復した。もう1名の水銀量は最初が11 ng/mLで、その後188.8 ng/mLまで上昇して入院に至った。汚染された長靴が曝露継続の原因と推定されている。
殺虫剤の人体実験:倫理と方針
殺虫剤製造業社がボランティアを募って殺虫剤の人体実験を行う回数が増えてきた。これに関する倫理面でのガイドラインは特になく、政府の監督も行われず、被験者の保護対策用手順もない。Oleskeyら(p. 914) は、殺虫剤の人体実験と標準化用の人体実験データの使用を取り巻く問題を検証するためにMount Sinai School of Medicine(マウントサイナイ医科大学)のCenter for Children's Health and the Environment(子供の健康と環境センター)が開催した専門家ワークショップの結果について検討している。彼等は、倫理面と公共方針面で提言を提供している。
子供の健康
殺菌の副産物と胎児の発育
殺菌副産物の疫学では、トリハロメタン(TTHM)を妊娠中の母体曝露の代用として使用してきた。Wrightら(p. 920) は、平均生誕時体重、平均胎児年齢、胎児年齢に対して小さいこと(SGA)、早産に対するTTHMの市町村平均濃度と追加曝露量の効果を検証している。生誕時体重の減少が、母体の> 90位(百分順位)のTHM曝露、> 20 mg/Lのクロロホルム曝露、> 40 mg/LのTTHM曝露の場合に検知された。また、 THMの場合にSGAへの曝露反応効果の証拠も見られた。( Science Selections, p. A490 も参照)
母乳の鉛と母体の血液、骨の関係
母乳の鉛源として、現在曝露を受けていない女性の母体の骨中の鉛の測定結果が報告された。Ettingerら(p. 926) は、メキシコシティで乳児に授乳中の女性を対象として、母体の血液と骨の鉛レベルと、母乳の状態の関係を定量化した。母乳は出産時の臍帯および母体の血液中の鉛と相関関係に� り、また、産後1ヶ月の母体の血液中の鉛および膝蓋の鉛とも相関関係に� った。比較的高い曝露を常に経験している女性は母乳の鉛レベルが低く、現在の曝露と集められた骨中鉛の再分配の影響を受けていた。
喘息の子供のFEV1 と空中の粒子状物質
空中の粒子状物質(PM)への曝露は子供の喘息を悪化させる。Delfinoら(p. 932) は、9〜17才の喘息患者の努力性肺活量の1秒量(FEV1)における一時的変化(%が予測されている)と、継続する人体へのPM曝露および自宅と街の中央部で測定した24時間の平均PMとの関係を検証した。その結果、彼等はFEV1や複数の日にまたがるPM平均の作業を行う前に、FEV1と24時間中に増えるPM曝露との反比例関係を発見した。複数の日にまたがる変動するPM平均については、さらに強い関連が発見された。
[目次]
前回更新日:2004年5月14日