環境ニュース
パートナーによる倫理問題の検討
NIEHS News (p. A988) では、同研究所の環境健康奨励金プログラムにおける「倫理問題を考えるパートナーの会」による取り組み内容を紹介している。同プログラムは、関係者全員の意見に公平に耳を傾けながら、地域の健康問題を調査する地域社会に根ざした研究者の協力を推進している。その他のニュースには、NIEHSが「2004 Biennial Scientific Symposium on Children's Health as Impacted by Environmental Contaminants(2004年隔年環境汚染物質による子供の健康への影響に関する科学シンポジウム)」を共同主催していることが挙げられている。
環境の中で行われる戦争
今月のFocus (p. A994)では、戦時中、戦後、および軍備がいかに環境健康に影響を及ぼすかについて2つの面から検討している。現代の戦争は従来の戦場に限定されることなく、多種多様な武器により歴史上経験し得なかった規模の損害を与え得る。その結果、従来より戦争がもたらした食糧、住居、水、公衆衛生の不足、伝染病、精神的トラウマなど、環境健康に多大な影響を与えた。
資源利用の� 利
国連によって1948年に「世界人� 宣言(Universal Declaration of Human Rights)」が承認されたことにより、人� の思想が国際的に普及した。今日、我々の人� の一つはきれいな水、空気、および生存に必要なその他の資源へのアクセスで� ると多くの関係者は考えている。これらの関係者は、地球の資源はわれわれ全員のもので� ると主張し、� 利に基づく資源へのアクセスを要求している。反面、地球を支配しているのは市場先導型の世界経済で� り、資源は売買される商品で� ると考える人々もいる。Spheres of Influence (p. A1006)は、この2つの考え方が和解可能で� るか否かを問いかけている。
研究
環境健康の落差
引き続く論争にも拘わらず、環境正義運動は貧困地域がより大きな環境の危険にさらされる可能性が高いことを示す情報を公表している。GeeとPayne-Sturges (p. 1645) は、居住地区の社会的・経済的な差別により、地域社会のストレス、汚染物質への曝露、公共資源へのアクセスの面で人々の感覚に違いが生じるようになる、と論じている。公共資源を用いて不均衡を是正しなければ、環境危険要因はより危険性を増す可能性が考えられる。
セルロプラスミンと男女別の銅反応
セルロプラスミン(Cp)は銅の状況を示す指標で� る。Mndezら(p. 1654) は、セルロプラスミン・グループ分布の上位と下位10%に属する健康な男女に2ヶ月間にわたり1日に10mgのCuを摂取させて調査した。結果として、血漿内のCp値は、Cu曝露の反応におけるサブグループを区別可能な信頼できる指標で� ることが判明した。最も顕著な反応はCp値が高い女性とCp値が低い男性に見られたことから、Cu曝露への反応はCp値と性別に依存していたことが挙げられる。
PAHとCYP1A抑制物質の相乗作用
一部の多環式芳香族炭化水素(PAH)は、魚類の初期生活段階奇形を引き起こす。アリル炭化水素受容体(AHR)遺伝子族に属するシトクロムP4501Aの抑制を受けると、プラナーPAH(pHAHs)の発育毒性が低まる可能性が� る。WassenbergとDi Guilio (p. 1658) は、魚の受精卵にPAHタイプのAHR作用物質で� る
-naphthoflavoneとベンゾ(a)ピレン、およびpHAHタイプのAHR作用物質で� るPCB-126を単独または何種類かのCYP1A抑制物質との組み合わせで曝露させた。naphthoflavoneとPCB-126の組み合わせ曝露の場合はPCB-126単独の場合よりも奇形が少なく、その一方で、CYP1A抑制物質と組み合わたPAHの曝露は、PAH単独よりも毒性が高かった。これらの結果、AHR作用物質とCYP1A抑制物質を両方含む環境混合物に関するPAH受精卵毒性の相加予測モデルに対して疑問を生じさせた。
農薬とヒトの精液の質
Meekerら (p. 1665) は、カーバリルとクロルピリホスへの環境曝露がヒトの精液の質の低下に関連しているか否かについて調査した。各曝露は、クロルピリホスとカーバリルの尿中代謝物濃度を抜き取り検査で測定した。精液の質については、精子の濃度、運動性精子の割合、通常の形態を持つ精子の割合、精子運動パラメータの割合を評価した。観察された精子の変化とカーバリルの関係はこれまでのカーバリル曝露に関する研究と一致していたが、クロルピリホスとの関係は既存のヒトと動物のデータが限定されているため、解釈が困難で� る。
騒音に誘引されたラット副腎のDNA損傷
騒音は、聴覚、心血管、神経、内分泌系に悪影響を与える環境ストレッサーとして見なされている。Frenzilliら (p. 1671) は、コメットアッセイを用いてラット副腎中のDNAの完全性に対する騒音曝露の影響について調査した。騒音(100 dBA)に12時間曝露された結果、副腎のDNA損傷に有意な増加が見られた。刺激の停止24時間後には、遺伝子の異常は減少していなかった。
更年期の血液と頸骨中の鉛の変化
米国では環境中の鉛曝露は大きく減少してきたが、更年期の骨内鉛備蓄の動きが懸念されている。Berkowitzら(p. 1673) は、1994年10月〜1999年4月の間に両方の卵巣摘出手術を受ける予定となっていた女性を対象に調査を行った。基準検査日と6ヵ月後の検査日の間に、特にエストロゲン代替療法を行っていない女性における中央値の血中鉛レベルに少量では� るが有意な増加が見られた。手術後6ヶ月〜18ヶ月の血中鉛値には有意な変化は観察されず、同期の頸骨中鉛濃度にも有意な変化は見られなかった。
二酸化珪素誘引による炎症介在
Raoら(p. 1679) は、in vitroまたはin vivoでの肺胞マクロファージ(AM)の二酸化珪素の曝露によって起こる肺炎症過程に発現した10の遺伝子を調べた。 in vitroでのAMへの二酸化珪素の曝露の結果、たんぱく質レベルは見られなかったが、3つの遺伝子(IL-6、MCP-1、MIP-2)のmRNAレベルは上昇した。二酸化珪素を気管内滴下後に摘出したAMでは更に4つの遺伝子(GM-CSF、IL-1b、IL-10、、iNOS)のmRNAレベルが上昇した。in vivoでの細胞内伝達の識別はいまだ未解明で� るが、繊維芽細胞は肺内で重要な炎症介在力を持つように思われる。
汚染物質測定の誤差修正
曝露の分類を間違うと、特に複数の暴露が関連した場合、反応の関連付けに偏った評価を招く。これは、死亡率と空気汚染の関係等の公共衛生の意味を考察する際に、重大な問題となる。ZekaとSchwartz (p. 1686) は、(特定の条件下では測定誤差が比較的少ない)複数曝露を調査する手法を使用して、全国疾病死亡及び大気汚染研究(NMMAPS—National Morbidity and Mortality Air Pollution Study)のデータを再分析した。PM10(空気力学的直径で10 µm以下の粒子状物質)の結果は、NMMAPSで報告された結果と類似していた(PM10の10 µg/m3増加につき0.24%増加)。
検知限度付きの測定データ
環境要因の量的測定は、上下限の検出限界が存在するために、困難な場合が� る。Lubinら(p. 1691) は、幾つかの共通変量(独立変数)の環境測定(依存変数)の回帰について考察し、非ホジキンリンパ腫のケースコントロール研究でコントロール被験者におけるカーペットの埃中に残存していた農薬の測定を利用する多様なアプローチを説明している。
研究デザインのための薬物動態モデル
Huら(p. 1697) は、経路モデルを検証するためのフィールド研究のデザインに使用できる薬物動態(PK)モデルとコンピュータ・シュミレーションを用いた手法を説明している。子供の食料摂取モデルが例として使用されている。著者らは、研究中で次のように3つの重要な要件を特定している。a)ルート/経路の曝露に有意な変化を持つ長期用にデザインされた研究、b)選定した化学薬品の短い生物学的半減期、c)選定した化学薬品の十分なレベルでの表面充填。PKモデリングを使用した結果、尿代謝物のバイオマーカーを利用して経路特定の曝露モデルの評価が可能となった。
亜砒塩酸誘引による発がん性細胞の染色体変異
少量の無機性亜砒塩酸への慢性曝露は、皮膚、肺、膀胱、肝臓がんを含む多様ながんの発生増加と関連付けられている。がんの発達中に腫瘍細胞内で遺伝子変異の発生が頻繁に見られるため、Chienら(p. 1704) は、ヒトのHaCaT細胞への亜砒塩酸の慢性曝露に誘引される遺伝子変異の種類について調査した。結果として、少量の無機性亜砒塩酸の長期的曝露によって、ヒトの非腫瘍形成型ケラチン生成細胞がヌードマウス中で腫瘍形成型細胞に変形し、染色体変異はこれらの腫瘍に影響を受けたすべての細胞列で観察された。
東グリーンランド北極熊の骨中無機質濃度
Sonneら(p. 1711) は、東グリーンランドで1892〜2002年の間に採取した北極熊(Ursus maritimus; n = 139)の頭蓋骨の骨中無機質濃度(BMD)を分析した。有機塩素系/ポリ臭化ビフェニルエーテルの推定前期間(1892〜1932年)のサンプルの頭蓋骨BMDは、未成人の雌、未成人の雄、成人の雄では推定汚染期(1966〜2002年)よりも有意に高かったが、成人の雌はこれに含まれていなかった。この強い関係は、東グリーンランドの北極熊のBMD障害が有機塩素系物質の曝露によって起こった可能性を示唆している。(p. A1011のScience Selectionsも参照)
TRI技術のGISモデリング
Toxics Release Inventory(TRI-毒物放出目録)は特定の事業所が年間の放出量を報告することを要求しているが、TRIへ報告していない工場からの放出量以外の報告については� まり知られていない。空気中への毒物放出に関連した技術の偏りは、注目を� まり集めてこなかった。Dolinoyら(p. 1717) は、TRI報告と非TRI報告の事業所で空中放出を4つのレベルの地質解像度で特徴付ける手法を開発した。この新手法により、空気毒物のモデリング、公平分析の実行、環境正義関連の報告事項に関する矛盾の明確化を行う能力が大きく高まることになる。
Ethynylestradiolが魚類の生殖を阻害
Ethynylestradiol(EE2)は、強力な内分泌制御物質で、生物学的に活性濃度で水中に存在する。Nashら(p. 1725) は、何世代にもわたって環境中の有効な量のEE2に曝露してきたゼブラダニオ(Danio rerio)の生殖活動の成功と増殖の阻害メカニズムに対する影響について調査した。誕生から継続的に5 ng/LのEE2に曝露してきたF1世代は、生殖能力に56%の減少をきたし、受精せず増殖は全面的に失敗した。(p. A1010のScience Selectionsも参照)
尿中フタル酸の変化
フタル酸の通常使用により、ヒトは食物摂取、皮膚吸収、呼吸、フタル酸含有の医療機器を通して曝露する。Hauserら(p. 1734) は、3ヶ月間にわたり男性の8種類の多様な濃度の尿中フタル酸代謝物質を検査した。8種類のうち5種類は頻繁に検知された。各個人とも、尿中フタル酸代謝物質のレベルはその日によって、またその月によって大きく変化した。結果から、曝露査定の方法はフタル酸の種類によって変える必要が� ると思われる。
環境医療
疫学と無線周波数曝露
Ahlbomら(p. 1741) は、無線周波数場(RF)のヒトの健康への影響に関する疫学研究の包括的概要について記述している。これまでの研究では、RF曝露と健康への悪影響の関係の原因となる一貫した証拠や説得力の� る証拠は論証されていない。しかし、これらの研究は不足が多く、関係の可能性を排除することはできない。さらに、小児期の曝露の結果に関するデータはゼロに等しく、公表されている(特に脳腫瘍と白血病に関する)データのほとんどは少数の結果のみを取り扱っている。
子供の健康
小児科環境健康の訓練
現在の小児科医療と看護教育は、ヘルスケアの専門家に適切な訓練を施すのに必要な環境健康に関する内容が不足している。McCurdyら(p. 1755) は、National Environmental Education and Training Foundation(米国環境教育及びトレーニング財団)が、Children's Environmental Health Network(子供の環境健康ネットワーク)と共同で創立したワーキンググループがまとめた提言について説明している。子供のための環境健康教育の改善が、医学・看護教育のすべてのレベルで必要とされている。ヘルスケアに携わる人々を小児環境健康について教育するための法律制定と手段の提供に必要な資源や専門知識も特定する必要が� る。
胎児期のDDTと人体測定法および男児の思春期
DDT族の化合物は内分泌活性が� り、生殖毒性と関連付けられてきた。すでに胎児期のp,p´-DDE曝露と思春期男児の身長と体重の増加の関連性が報告されている。Gladenら(p. 1761) は、以前に行われた� る研究に参加した1960年代生まれで、高レベルの曝露を受けた男性グループを調査した。同グループの思春期の人体測定値と、保存されていた妊娠期の母体からの血漿サンプルが入手できた。著者らは、胎児期の曝露とDDT混合物または測定結果の間に何らの関係もないことを明らかにした。
環境中オゾン曝露とプール
オゾン(O3)等の気道刺激物は肺機能を損傷し、気道の炎症を引き起こす。Lagerkvistら(p. 1768) は、肺機能とCC16(クララ細胞たんぱく質、肺損傷のマーカーとして提案されている抗炎症性たんぱく質)の血漿中濃度を使用して、環境中の曝露とプールへの参加による肺の反応を調査した。室内プールの空気中に存在する塩素化副生成物に繰り返し曝露すると、子供のクララ細胞機能に悪影響が見られた。クララ細胞の損傷と喘息などの肺疾患との関係については更なる調査が必要で� る。(p. A1010のScience Selectionsも参照)
WTC事件での曝露とその後出生した子供たち
胎児期に世界貿易センター(WTC)の災害の汚染物質に曝露したり、ストレスを受けた子供たちの健康に関する懸念はいまだ存在する。Ledermanら(p. 1772) は、事件当時妊娠していた女性を対象に、事件後の4週間の妊娠段階とWTCからの距離による出産結果への影響を査定した。2001年9月11日に妊娠しており、事件後1ヶ月の間WTCから半径2マイル以内に住んでいた女性に生まれた乳児は、他の被験者女性に生まれた乳児と比較して、誕生時の体重(-149 g)と身長(-0.82 cm)に有意な減少が見られた。
[目次]
前回更新日:2004年11月17日