環境ニュース
NTP:これからの道
25年経った今でも、国家毒性計画(National Toxicology Program-NTP)にはこれまでの名声に甘んじる意図はない。同計画は、今後10年間の調査活動の指針とするために、今月のNIEHS News (p. A874)で説明されている「ロードマップ」を作成中で� る。同計画の目標とは何か?それは、最新のハイスループット・テクノロジーの利用も手段の一部に取り入れ、毒性学を観察する科学から予測する科学へと昇進させることで� る。
環境心臓学:心臓の話
過去数十年にわたり、微粒子状物質、重金属、ダイオキシン等の環境物が様々な形で心臓の健康に影響を及ぼすことの証拠が累積されてきた。しかし、この研究分野に「環境心臓学」という名称が与えられたのはつい最近のことで、また、その本格的な調査研究が開始されたのもつい最近のことで� る。Focus (p. A880)では、同分野が発展する様子と、医学・科学研究の議論の主流へと移行していく様子を検証している。
石炭は戻ってくるか?
Spheres of Influence (p. A888)では、耐久性が� り、人類が生成したオリジナル燃料の一つで� る石炭の一時代を検証している。主に環境への配慮により石炭の使用は数十年間減少していたが、最新技術によりこの燃料をきれいかつ容易に使用できるとすれば、米国で大規模に再利される可能性が� る。
忘れられた森林を救う
数多くの木々が丸太運動中や大型ダムの建設で水没した後、水中で忘れ去られている。水が冷たい所では、水中の木材は半永久的に健全な状態でいられる。最近カナダの企業が、湖の生態系を阻害することなしにこれらの忘れ去られた森林を水上へと引き上げる方法を見つけた。同社の手段はInnovations (p. A892)で説明されているが、Sawfish(ノコギリ魚)という名称で知られている遠隔操作の潜水艦を使用するもので� る。
研究
職業関連の発がん性物質のリスト
職業関連の発がん性物質のリストは、発がん性物質が見つかる可能性が� る職業や産業、またその標的部位に関する基準が明確でなく情報が不完全なために、これまで限界が� った。Siemiatyckiら(p. 1447)は、職業関連の発がん性物質、それらが発見された職業や産業、それらの標的で� る人体部位に関する最新の情報をまとめた。著者らは、28の物質を明らかな職業発がん性物質、27の物質を可能性の高い職業発がん性物質、113の物質を可能性の低い職業発がん性物質として認めた。
有機塩素系殺虫剤の曝露と結腸直腸がんのリスク
有機塩素系殺虫剤(OC)は、その使用・放出量の削減にも関らず、いくつかのがんリスク増加と関連付けられる最も重要な持続性汚染物質グループの1つに残っている。Howsamら(p. 1460) は、OC曝露による結直腸がんのリスクと、その腫瘍の遺伝子変化(K-rasおよびp53)への反応を調べるために、ケースコントロール研究を行った。結直腸がんのリスク上昇は、mono-ortho PCB 28と118の血清高濃度と関連していた。
シンガポール産イガイの内分泌かく乱
Bayenら(p. 1467)は、シンガポール沿岸から採集した一般的に海水汚染の指標となるミドリイガイ(Perna viridis)の性ホルモン活性データを報告している。組織抽出物は、ヒトのHeLa細胞株のレポーター遺伝子バイオアッセイを使用して、アンドロゲン受容体とエストロゲン受容体に対する活性を調査した。イガイ抽出物だけではAR活性は見られなかったが、活性型アンドロゲン(DHT)が存在すると、その活性はDHTのみの場合に観察されたものと比較して340.1%増加した。活性のピークは、工業地帯と海運業活動が盛んな地域の周辺で観察された。
累積エネルギー摂取が雌ラットの思春期開始時期を決定
実験動物の食物摂取は、内分泌かく乱アッセイのコントロール値と感受性の両方に影響を及ぼす可能性が� る。Odumら(p. 1472)は、雌ラットの累積エネルギー摂取と性的成熟の関係について調査した。膣の開口(VO)は一匹につき最高2,300 kJ(離乳からVOまでの間の食物総摂取量を測定)のエネルギー摂取で起こった。これは、累積エネルギー摂取量が思春期開始の引き金となることを示している。従って、代謝エネルギーは内分泌かく乱の研究では食物の選択が重要要因で� るといえる。
Xenoestroge(環境エストロゲン)が誘発するERK活性
多種のin vitro・in vivoアッセイにエストロジオールと比べてxenoestrogenの活発な活性が見られない場合、このステロイド作用を通じて動物に異常をきたす能力の説明は難しくなる。BulayevaとWatson (p. 1481) は、何種かのxenoestrogenが、高レベルの組織エストロゲン受容体ER-
を発現する下垂体の腫瘍細胞株GH3/B6/F10で細胞外シグナルで制御されているたんぱく質キナーゼ(ERK)をすばやく活性化できることを証明している。複数の阻害剤がERK活性を阻止し、検査した各xenoestrogen反応に異なる影響を与えた。(p. A897のScience Selectionsも参照)
イソプレンとブタジエン光化学生成物の効果
発がん性空気汚染物質で� る1,3-ブタジエン(BD)とその2-メチル類似体で� るイソプレン(ISO)は化学的に類似しているが、ISOの方は有意な発がん性を示さない。日光と酸化窒素によって誘発された反応は、空気中のBDとISOを数種類の光化学反応生成物へと転化させる。Doyleら(p. 1488) は、A549細胞のBDと、ISO、およびこれら光化学分解生成物の曝露によって誘発される相対的毒性と炎症性遺伝子発現を測定した。 その結果、BDとISOは単独ではエアコントロールと比較すると類似の細胞毒性とインターロイキン-8 (IL-8)反応を示すが、それらの光化学生成物では細胞毒性とIL-8細胞発現が有意に高まった。
グリーンランドの鉛
グリーンランドでは血中鉛レベルが低下してきた。しかしグリーンランドの環境中の鉛レベルが非常に低いことを考慮すると、現在の血中鉛レベルでも高いといえる。狩猟で捕獲された鳥の体内で収集した鉛のかけらは、重要な経口曝露源だとされてきた。1993〜1994年のグリーンランドの横断人口調査で、Bjerregaardら(p. 1496)は、年齢と性別を調整した血中鉛濃度は、報告されている海鳥の消費と関係していることを発見した。血中鉛は、他の地元の食料や輸入食料の経口曝露とは関連していなかった。
妊娠期と産後のカルシウム追加と血中鉛
母体の骨の新陳代謝は妊娠期と授乳期に加速される。Gulsonら(p. 1499) は、妊娠期と産後6ヶ月間のカルシウム補給による保護効果の可能性を調査した。十分なカルシウムを摂取した被験者では、血中鉛の増加が遅れ、妊娠後期と産後期の骨から放出される余分の鉛が減少するため、発育中の胎児と新生児が曝露する鉛量が減少する可能性が� る。カルシウムの補給は、授乳期の鉛毒性に対して限定された効果を持つように見受けられる。
体外と河川堆積物のアンドロゲン生成
フロリダのフェンホロウェイ川には、製紙工場から廃棄物が放出され、ボウフラを食す雄性化したメスのカダヤシという魚が生息している。Jenkinsら(p. 1508)は、植物ステロール(例:β-シトステロール)がバクテリアによってプロゲステロンに変形し、続いて17
ヒドロキシプロジェステロン、アンドロステンジオンその他のアンドロゲンに変形するという仮説を立てた。調査結果によると、これらのアンドロゲンはバクテリアMycobacterium smegmatis(恥垢菌)によってin vitroで生成できると判明した。アンドロゲン活性を有する
1ステロイドで� るandrostadienedioneの存在もフェンホロウェイ川で確認された。
環境中のカドミウムと鉛が持つ肝臓と腎臓への毒性
Satarugら(p. 1512)は、一度も喫煙したことのないタイ人の健康な男性と女性を対象として、肝臓シトクロムP450 2A6(CYP2A6)表現型および腎障害とカドミウムおよび鉛の曝露との関係を調査した。カドミウムと関連した腎障害とCYP2A6活動の間に正の関係が男性(r = 0.39; p = 0.002)と女性(r = 0.37; p = 0.001)に見られ、これはカドミウムが誘発する肝臓のCYP2A6発現とカドミウム関連の腎障害が同時に発生したことを示唆している。
齧歯類の食物摂取と生殖細胞での発現解析
植物エストロゲンは、一般に実験動物の食料に混入されており、その植物エストロゲンによる齧歯類バイオアッセイの結果への影響が議論をよんでいる。Naciffら(p. 1519) は、未成熟雌ラットのエストロゲン反応細胞を使用して、細胞株と従来の生物学的エンドポイント法に対する食物中の植物エストロゲンの影響を査定した。結果を見ると、食物構成は子宮と卵巣の細胞株に影響を与えるが、エストロゲン受容体作用物質で� る17
-エチニルエストラジオールの効果へは影響を与えないことが分かる。
自動車排気ガスの構成と毒性
McDonaldら(p.1527) は、ラットの肺の炎症と細胞損傷およびバクテリアの突然変異誘発力の測定を通じて、自動車排気ガスの化学構成と毒性の関係を評価するために、主成分分析と部分最小二乗回帰を組み合わせて使用した。突然変異誘発力にとって重要で� る特殊な窒素多環式芳香族炭化水素は肺毒性と関連していなく、これは高分子量と関連している生物炭素(特に潤滑油中に存在するホパンとsterane)と関連していた。
ディーゼル排気ガスに曝露した 鉄道作業員の肺がん
ディーゼル排気ガスに関連した肺がんのリスク査定は、曝露作業者を長年追跡した調査数が十分でないために限られていた。Garshickら(p. 1539) は、1959〜1996年の間、鉄道作業員54,973名を対象として肺がんによる死亡率を調査した。ディーゼルエンジン駆動の列車と関係する仕事に就いていた人の肺がん死亡率が高かった。1959年以前の石炭燃焼による生成物の影響は度外視できないが、これらの結果は、調査グループにおけるディーゼル排気ガスの肺がん死亡率への影響を示唆している。
子宮内でのER活性のイメージング
環境エストロゲンは、胎内発育期に曝露が起こると特に懸念されるが、発育期の曝露は検査が非常に困難で� る。Lemmenら(p. 1544)は、ルシフェラーゼと結合したエストロゲン反応物質を持つ遺伝形質転換マウスを生成した。このin vivo モデルをイメージング・システムと共に使用すると、母体に注入したビスフェノールA(BPA)とその他のエストロゲンによるエストロゲン受容体の活性化が胎内の生きている胚内で検知できる可能性が� る。結果は、in vitroアッセイを使用して評価したBPAのエストロゲン潜在力は、胚のエストロゲン潜在性を過小評価する可能性が� ったことを示している。(p. A896のScience Selectionsも参照)
香港SARSの空間的集中
Laiら(p. 1550)は、香港でのSARS(重症急性呼吸器症候群)の発生期間に、地理情報システム(GIS)テクノロジーを使用して感染パターンを分析した。発症事例を空間と時間に類別して行った初期マッピングでは、発症が香港全域のうちどのくらい広範囲にわたっていたかが瞬時に提示され、幾つかの「ホットスポット」に集中してSARSが発生したことが確認された。発生源と最終到達地のプロットでは、広がりの方向と範囲が表示された。(p. A896のScience Selectionsも参照)
気候の変化とオゾン関連の健康への影響
Knowltonら(p. 1557)は、気候の変化により将来起こる可能性の� るオゾン関連の健康への影響を調べるために、統合されたモデリングのフレームワークを開発・適用した。気候の変化のみ、また気候の変化とO3先駆物質の放出と人口増加の組み合わせから、夏の死亡率に対するO3関連の影響の変化を、31郡から成る大ニューヨーク地域を対象として2050年代の5回の夏について査定した。予測によるとO3による最高死亡率は、中心の大都市地域の各郡から人口密度が比較的低い郊外の各郡にまで及んでいる。
環境医療
WTC粉塵に曝露した消防士の誘導唾液
ニューヨーク市の消防士(FDNY-FF)は、世界貿易センター(WTC)の崩壊中と崩壊後、粒子状物質と燃焼生成物に曝露した。崩壊の2ヵ月後、Firemanら(p. 1564)は、独特な燃焼パターンや粒子状物質の沈着が存在するか否かを評価するために、高度の曝露を受けた39名のFDNY-FFから誘導唾液(IS)のサンプルを入手し、これらをコントロールのサンプルと比較した。高度の曝露を受けたFDNY-FFのISには、未暴露のコントロールのISとは違った炎症、粒子サイズの分布、構成物が見られたが、これらはWTC粉塵曝露と一致するもので� った。
子供の健康
潜在睾丸と尿道下裂
潜在睾丸と尿道下裂の原因となる環境リスク要因については� まり知られていない。Pierikら(p. 1570)は、男児グループのケースコントロール研究を使用して、親の摂取物中の内分泌かく乱物質と生活習慣に焦点を当て、潜在睾丸と尿道下裂のリスク要因について研究した。親の殺虫剤曝露は潜在睾丸と関連しており、親の喫煙は尿道下裂と関連していた。これにより今後の研究に親の曝露を含むべきで� ることが分かった。
血中鉛レベルの地理的分析
HaleyとTalbot (p. 1577)は、ニューヨーク州で1994〜1997年に誕生し、2歳前に検査された677,112名の子供を対象とし、血中鉛レベル(BLL)の地理的分布の調査を行った。地域社会での特徴で分類した場合、古い住宅、高校卒業生黒人の母親を持つ子供のうち多数が、高レベルBLLと最も高い関連を持っていた。インナーシティー地域、特にニューヨーク州北部で鉛の環境健康問題は続いている。
住宅と健康:危険に晒される子供たち
2002年11月、National Center for Healthy Housing(全米衛生的住宅センター)は、2日間のワークショップを開催し、住宅が子供の健康に与える影響と、実際の住宅建設、改築、保全に役立てるための研究結果の解釈について討議した。Breysseら(p. 1583) は、合意された標準的測定値の欠如、家庭での危険要因への対応に関する不十分な理解、行政による介入の効果性に関する調査の不足、不十分な政府からの援助等、現在の健康的な住宅を建てる試みに限界が� るという討議結果の概要を説明している。
[目次]
前回更新日:2004年10月14日